第3-2話 尾行?

『授業中、置山 帆乃の行動はプログラム通りだ』


 放課後、校舎を出た和技は、スマホに送られてきた先輩からのメッセージを読む。

 声に出さず、脳内だけで言葉のやりとりは可能だが、どこで誰が見ているのかわからないので、今はスマホ操作でメッセージのやりとりをしている。


『まあ、容姿の変更だけなら修復ポイント指示のハンコを押すなり、強制終了できる。

 プログラムなんだし、奥手な和技ちゃんのちゅうの練習も可能だぞい』

『ターゲット確認。調査開始』

『りょーかい』


 置山 帆乃が目の前を通り過ぎて数秒間後、和技はスマホアプリを終了させ制服のポケットにしまう。

 このまま歩き出せば、近すぎず、遠すぎず、ちょうど良い距離で尾行が可能だが、和技の足は動かない。


「……」


 少し挙動不審なクラスメートが向かってきたため、様子を窺おうとしたが、向こうは和技を見つけると ずかずか近づいてきた。


「棚島、帰るのか? 奇遇だな、俺も帰る所だ」

「放課後だから、そりゃあ帰るよ…」

「そうだよな、放課後だもんな。まあ、たまには一緒に帰ろうぜ」


 少し強引な言葉もそうだが、変に力の入った目は『置山 帆乃を尾行したいけど仲間が欲しい。だから、一緒に行こうな。お前も気になってただろ? いいよな?』と強制していた。


「あぁ」


 心の中でため息をつき、和技は調査を開始することにした。




『こいつ…名前なんだっけ……確か綿山車わただしだったな』


 2人は、距離を離して置山 帆乃の後をついて行く。


「綿山車、もし、置山が振り返っても、立ち止まらず、視線を合わせずに通り過ぎるのが良い…と、何かのアニメかドラマで見たような、気がする……って何してんだよ」


 小声で助言し隣を見てみると…クラスメイトはスマホを取り出しカメラアプリを起動していた。和技は小声で制したが、録画開始音が鳴る。


「………………………」


 置山 帆乃が振り返り、尾行がバレる最悪のパターンを予想したが、振り返ることなくターゲットは進んでくれた。


「ふう。おい、バレたらおしまいなんだからな」

「わかっているよ」


 小声で反省しているものの、カメラは止めない。


「もし置山が『特別な人達』だった時のため撮っておかないと」

「………」


 和技は、クラスメイトの様子をしばらく見つめてから、思った事を口にした。


「綿山車の場合、置山は『特別な人達』というより個人的に『特別な人』だろ」

「ばっ、違うよ。置山は可愛いから撮っておきたいだけでっ」

「だから、大きな声を出すなって」


 注意する自分の声も大きくなり、さすがに置山 帆乃の足が止まる。

 振り返り2人に向かってきた。


「あちゃー、バレちゃったじゃないか、どうするんだよ」

「どうするって…棚島、どうすれば良い、逃げる?」

「顔見られた状態で逃げたら明日からどうするんだよ。嫌悪になるだけだぞ」

「それは困る。置山に嫌われたら、俺は…」


 クラスメイトの片思いが明るみに出たところで、女子中学生より小さな置山 帆乃が2人の前まで到着した。


「2人とも、後を付けてたようだけど」


 通行人として存在する、クラスDのプログラムであっても喜怒哀楽はあり、不審者を問いただす事は可能である。


「え、いや、帰り道を歩いてただけなんだけど、なあ、綿山車」

「え、あ、あぁ、そうだやな」


 とりあえずとぼけて相手の反応をみることにした。


「ふうん」


 置山 帆乃はさらに接近し、綿山車をまっすぐに見あげる。


「……、…」


 想い人に見つめられたクラスメイトの顔はみるみるうちに赤くなり、隠し撮りという行動もあって視線がそれていく。


「ふふっ」


 置山 帆乃は小さく笑い、近接と直視を解除した。


「まあ、良いわ。2人とも相手してあげる」


 そして予想してない事を口にした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る