第3-1話 クラス

 『特別な人達』という存在がバレないように仲の良い友達を作る気になれない和技だが、周りから迫害される事はなく、普通に学校生活を送っていた。

 今日の朝も昨日と変わらず、誰とも挨拶することなく自分の席に座るのだが、この日は近くの席で雑談していたクラスメートに声をかけられる。


「棚島はどう思う? 置山おきやまの事」

「置山って?」

「2組の置山だよ。『特別な人達』って噂らしいぜ」

「特別な人達って事は、何か超常的な力を使ってたとか?」

「見てはないけど…何か、それっぽいんだよ」

「ふうん」


 和技は驚く気にもなれなかった。

 と言うのも、誰かが『特別人達』なのかもしれない…という噂はよくある話で、頻繁にではないが『誰かと誰かがつきあっているらしい』レベルで話題になる。


「まあ、空を飛んだりチート的な所を見ないかぎりは、何とも言えないよな」


 仲間の1人が代弁してくれたので、和技もうなづいた。


「その点、棚島はないよな。どう見ても普通にしか見えない」

「そうかい」


 普通にしか見えないのは複雑だが、和技にとってほっとする言葉だった。


「ねー、誰かクエスト手伝ってくれない? エミリたん強すぎて勝てないんだよ」


 別の話題に切り替わったので、和技はカバンからスマホを取りだしたが、少し考えてアプリを終了させる。


『調べる必要もないか。なんせ、2組はクラスDのモブクラス。『特別な人達』の誰かがバレたなんて可能性はないだろう』



 2022年の架空世界に存在する人間は、A B C Dと、四つのクラスに分けられていた。


 世界の秘密を知る『特別な人達』をクラスAとし、何も知らない『普通の人達』がクラスB

 そして本当の2022年と比べ激減してしまった人口を補うため、架空世界の住人を多く見えるように創られたAIがクラスCとあてがわれていた。


 残りのクラスDはAIでもないプログラムで、ドラマでエキストラが演じる通行人や、ゲームの村人たちにあたる。

 指定された時間に指定された行動をする2320年製のプログラム達は、何か問われても簡単に受け答えはでき、普通の人達が気づくことはなかった。


 更にモブキャラクター達は一カ所、一つのクラスにまとめられていて、和技達の学年では2組にあたる。

 架空世界という秘密を知らない『普通の人達』から見ればモブクラスは、影が薄いクラスに見られるぐらいだった。


『…とは言え、バグの可能性もあるから、念のため確認はしておかないとな』


 和技はスマホアプリを起動させ、情報収集を始めた。





『2組の置山こと置山 帆乃おきやま ほのは、昼休みに自販機にお茶の紙パックを買いに来る』


 食堂に着いた和技は壁側に設置された自販機に目を向けるが、それらしき生徒は見当たらない。


『身長155センチのやせ型で、紺の髪ゴムで一つのにまとめている』


 何もしないでキョロキョロしてたら怪しまれるので、和技は彼女が買いに来る自販機でココアを購入して移動しようとしたら、何かにぶつかった。


「あ、ごめん」

「い、いえ…」


 それがの置山 帆乃だった。


「……」


 和技は少し離れ、ココアを飲みながら観察する。


『データと違うな。髪は結んでなくて…それに150センチ…ななるよりもないんじゃないか?

 何より…』

「可愛いよな」


 背後から肩をポンと置き、ボソリと声をかけたのは、同僚の帯論…ではなく、朝、話しかけてきたクラスメートだった。


「あぁ、そうだな…」

「でも、可愛いだけじゃないんだ…何か、何か違うような気がするんだよ」


 パンを買いに行くクラスメートを見送り、教室でお弁当を食べる設定なのか、食堂を後にする置山 帆乃の背中を見続ける。


『クラスDのモブは、目立たない容姿に創られていのに…』


 和技は壁に背を当て、近づいてくる者がいないか確認してから、制服のポケットこらスマホを取り出し300年後の世界にいる同僚に送れる会話式メッセージアプリを起動させ、文字を入力した。


『帯論さん、何か嫌な予感がする』


 スマホ画面を見つめる和技の目は鋭くなっていた。





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