第2-2話300年前の朝』

 和技が目を開けると架空世界にある棚島家の自室のベッドにいた。


「布団とマクラの感触、未だに違和感あるんだよな…」


 架空世界で起床した和技が最初にやる事は、全身鏡で『棚島 和技』の外見になっているのかチェックするのと、スマホに書き込まれたAIの日記だった。


「問題は、ないようだな」


 和技が本当の世界に戻っている間、和技として行動してくれたAIが書いてくれた行動を読み、つじつまを合わせなけらばならない。

 大喧嘩した相手に笑顔で接することのないように。


 部屋のドアを開けると、ほぼ同時に廊下を出た七流と目が合う。


「……」


 そして『おはよう』の挨拶せずに始まる洗面所争奪戦が幕を開けた。


「七流が先に使うからね」

「顔だけ洗わせてくれよ。

中学生なのに、長過ぎるんだよ」

「中学生だって身だしなみは重要なのよ。そういうお兄ちゃんだって髪短いのに、前髪イジりすぎ」

「あのなぁ、短いからこそ、良い角度を保たなければならないんだ」


 ぎゃあぎゃあと騒ぎながら階段を駆け降りる様は、架空世界設定であっても、兄妹そのものであった。



 政治、経済は創られたネットワーク世界で回っていて、高校生である和技も、こっちの世界で授業をうけなければならない。

 受けなければならないが、何もなければ、普通の高校生と同じ授業を受けて、普通の人達と変わらない生活を送っていた。


「……」


 そう、何もなければ


 授業を終えて帰宅途中の和技は足を止めた。


「どう思う? 帯論さん」


 そして、和技の近くにいるスーツを着崩した中年男に話しかける。


「新装開店祝いの花輪があるのに、何十年も前からある、頑固オヤジが創るラーメン屋のような店。バグの可能性が高いな」

「花輪に書かれている店名も違う。バグは花輪か?店か?

 まあ、両方 押しておけば、良いか」


 和技はスマートウォッチを操作し、バグによる修復ポイントを指示できる電子的なハンコアプリを起動させようとしたが、帯論は首を振り店に向かう。


「まあ、待て。一度、中に入って確かめてみよう」

「ただ単にラーメン食べたいだけだろ」

「こういう所のラーメン屋は美味いんだよ」


 先輩が引き戸を開け中に入って行くので、和技も後を続くしかなかった。


「いらっしゃいませ」


 頑固オヤジにしては、丁寧な挨拶が返ってきた。


「……」


 店内はパステルピンクをメインにしたファンシーな内装で、専用のショーケースには、SNS映えしそうなカラフルなアイスが並んでいる。

 どう見ても、女性向けアイスショップのようだ。


「Snow-bare partyへようこそ」


 開店初日で少々緊張しながらも笑顔で接してくれる店員さんなのだが、フリルのエプロンに可愛いピンクの制服を着た太い眉毛の頑固そうなおっさんだった。


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