第2章 #2-4 泣いた勘定方 が もう笑った

#2-4 甲斐国 府中 躑躅が崎館 大永元年十一月二十七日

 1521.11.27 side大井夫人椿


さて、久しぶりの躑躅が崎館、甲府の町が何ともなくて本当に良かった。

私は供の者と子供たちを引き連れ、要害の城から館へようやく戻ってきた。


今川との戦は、大将福島の討ち死にで呆気なく決着がついちゃった。


今川の敗残兵は、富田の城に逃げ込み、周りを伺っているらしいわね。


籠城といえば聞こえがいいが、別に武田軍が周りを囲んでいるわけではないのよ。


「まあ、無事済んだようね。さすが虎ちゃん!」


早速愛しの旦那様と対面し、虎ちゃんの労をねぎらう。


どうするかって?簡単よ。


偉そうに床几に肘をかけて座り込む虎ちゃんに正面からしずしずと進み。


ゆっくりと虎ちゃんの頭を抱えるように抱き締めると


「偉い、偉~い!よし・・よし・・。」

優しく頭を撫でる。


虎ちゃん真っ赤。


こういうとこは子供なんだから。まだ明るいんだからここまでね。


「さて虎ちゃん、勘定方を集めて頂戴な。これから、後方部隊で一戦交えてもらいます。」


「勘定方の戦?。そ、それに椿!も、もう終わりなのか・・・。」


「そう、虎ちゃんの番はお・終・い!」

いやそうじゃないって顔してるけど、それは今晩まで待ってね。


「むう・・・。」

可愛い!


「さて、これからが大変です。」


「そうだな、まずは部下たちに褒美を取らせねばならんからのう。」


「大丈夫、今川からたっぷり徴収するから」


さてさて今のところの収支はどれ位かな。まああれだけ派手にやったんだから


虎ちゃんとには違いないわよね。


さてと武田の誇る勘定方を集め、評定を開くと致しましょう。


「あ、一応虎ちゃんも来るのよ。」


「え、俺後で良くない?」


「号令をかけるのは虎ちゃんの仕事でしょ、ちょっと無茶しなきゃだから虎ちゃんが頼りなの♡よろしくねっ!」


というわけで、武田の頭脳部隊に集まってもらいました。

パチパチパチ!


まずは、武田の軍師!今回の合戦でも部隊の差配をお願いした

萩原常陸介!


「で、今回武田の動員で使った銭はどのくらいかしら。」


「はい、兵2000人が8月の中頃より動き始め約百日ほど経ちますので。兵糧だけで馬の餌もろもろもあわせ2000貫目でしょうか。」

常陸介は淀みなく数字を並べる。


「それだけで500両ね、今川へ流れた米は?」


「大井様の寄贈分が5石、秋山様から2石、加賀美様から2石、工藤様1石が流れ合計で10石ですね。あと十日市の際、浅利様を通じて、50石が1升30文の値で流れています。」

勘定奉行の青沼肥後守が今川に流れた兵糧の流れを説明する。もちろん虎ちゃん承知の上で、各国衆は今回今川軍に兵糧を提供している。


「これは武田が負担するので、60石分が200貫、詫び料含め200貫として50両かしら。」


「いえこれは狼藉を防ぐいわばみかじめ料のようなもの、各地の領主が負担いたしまする。」

大草を領する工藤長門守が恐縮しながら言葉を繋げる


「父も、それで構わないと。」

息子の兵糧方である浅利右馬頭虎在が答える。



「それは助かるわ。ではその負担は後にしましょう。逆に買入も多かったのよね。」


「はっ、畏れながら、お屋形様の下知に伴い、最初の十日市で、1升120文にて210石分で630両その後の飯田の市が3度あり合計160石ですが相場は上がりましたので合計で千両の持ち出しですね。」

板垣の爺の嫡男、駿河守信方殿が帳面をめくり報告する。


「1630両かあ、商人への手間代も入るから、1800両はかかるのかしら?」


「父が先に心付けを渡しておりますがそこまでは必要ないでしょう。」


「心付けって?」


「飯田河原の合戦の戦勝祝いに、武田の出陣武者たちの慰労を頼んでおり、その経費に金100両を」


「おい、駿河守・・・。」


「まあ兵二千に二百文として確かにその位になるわね?まあそれは必要経費として引いていいわ。」


「駿河守、虎ちゃんも楽しんだのよね。」


「はは、慰労にはお屋形様のお言葉が励みになりますゆえ。」


「じゃあ、その経費は虎ちゃんの小遣いから引くから、やっぱり戦費には入れなくていいわよ。」


「お、おま・・・。」


「虎ちゃーん♡、私たちがいない間、肌が寂しかったのよね~。聞いてるわよ。」


「駿河守、よ、良きに図らえ。」


「はっ。」


「で申し訳ないけど、右馬頭殿、浅利の父上には申し訳ないのだけれど、今川に売った300石分の売渡証と先払いの代金は、こちらの支払に当てなきゃならないので承知しておいてね。」


「はい、元より承知の上。此度の合戦で浅利が指示して運んだ100石分の兵糧はそのまま鹵獲しておりますから、200石分でよろしいかと。」


「何を甘い事言ってるの。証文通り、合戦前に売り渡したんだから300石分の代金の残りは、きちんと駿河の福島家に請求するわよ。戦場に置き忘れた100石は、武田が合戦で得た鹵獲品なんだから、これは別よん。」


「じゃあ今のところ、出ていったのが2200両くらいで、今川に売ったのが1500両だから、700両分の赤字ですかな。」

勘定奉行の青沼肥後守が真っ青な顔で武田の損失分を計算する。


「こちらには100石分のお米を手に入れたから、これを富田に籠る兵に売りつければ何とかなりそうね。」


「そうですな。1升300文にすれば、700両になりまするな。」

萩原常陸介がしたり顔に案を出す。


「さすがにその相場で売るのは、足元を見ているようで今川の足軽が反抗しそうね。

今まで200文くらいで販売していたんでしょう?」


「はっ。上条の戦の前は250文でした。」

青沼肥後守さすが勘定方ね

とはいえ。周りの領主たちの米の売り買いは禁じていたから、国衆にも儲けてもらわないとあとあと厄介よね。


「じゃあ、甲斐の国衆にも米の相場を1升150文での売買から認めると虎ちゃんから下知を出してちょうだい。」


「姫様、150文では350両ほど赤字が残りますぞ。」

青沼肥後守泣きそうな声、心配ないってば


「良いのよ、残りは今川への賠償として交渉しましょ、今川兵が甲斐に残れば残るほど費用は嵩むのよ、払わなければ高い甲斐の米を兵に買い上げ続けて貰うわ。」


「富田に籠る兵にそんなに銭がありますかな?」

浅利殿は心配性ね


「払えなけりゃ、今川に人質代として払ってもらうし、払いたくなければ、金山衆は喜んで鉱夫として引き取ってくれるわ、まだ6000人位いるんでしょ一人1貫としても6000貫で1500両よ、まあこれが一番早いわよね。」

まあ流石に残った今川兵全員を鉱山送りにしたら問題よね。でも何か今川兵が問題を起こしたら遠慮なく取り締まって貰いましょ。


「では、福島一族宛て、兵糧の未払い分の催促を早速始めます。」

浅利殿よろしくね。

 

「富田城周辺の警備はいかが致しますか。」

萩原常陸介が話を戻す。

「兄の奥さんが今川家臣、瀬名の姫なんだから、大井の家のもの中心で警備するのが、今川の兵にとっても安心じゃない?ねえ、兄にお願いできるかしら。」

私は席の後ろで畏まる弟の大井上野介信常に声をかける


「姉様、ではなかったお北様、お役目承知つかまりました。」

よしよし、あとは


「じゃあ、板垣様、すぐに座の者に連絡して富田城にて市の準備を、来月10日を目安にね。10日までは1升150文、市の翌日からは毎日一割づつ米の値を上げて。」


「毎日1割ですと?」

勘定方が慌てた声!


「ははっ。それは良い!」

常陸介はすぐに気付くのよね。


「毎日10文づつ上げる意味が分からんのだが?」

虎ちゃんが知ったかぶりしてるわね。


「毎日1割上げてくのよ。そうするとね10日目ではなく8日目には倍になっちゃうのよ。」


「晦日には1升がええと、1000文を超えますな」


「だれがそんな米を買うのじゃ。」


「今川で銭と知恵が少しでも回るものなら、さっさと米を売るか、今川に助けを求めるかするわよ。」


「のんびりしておったらそれは大変じゃな。」


「その分武田は潤うのだからいいじゃない。」


「そ、その値段で米の買い上げもするのですか?」


「いやいや、もう売るだけよ。」


「はぁぁぁぁぁああああ(安堵)」

青沼肥後守長い間苦労かけたわね。


「あと、今川から狼藉を働くものが出たら、遠慮なく取り締まってね。」


「どうされるので。」


「刃向かってきたら捕虜じゃなくて、犯罪者なんだから、遠慮なく金山送りで売り飛ばせるじゃない。だからってあおって手を出させようなんてしちゃだめよ。」


「承知しました。」

勘定方顔がどんどん笑顔になってるわよ。


さあ、年末までに片付けちゃいましょね

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