第1章#9-1 第二次飯田河原の合戦
#9-1 甲斐国 府中南一里 荒川飯田河原 武田の陣 大永元年十月ニ十六日 1521.10.26 side原美濃守虎胤
「長槍隊が、全く見えないのう、今川も懲りたと見える。」
鬼美濃は、河原の向こう岸に着陣した今川軍の陣立てに笑みを浮かべる。
今川の長槍が、こちらの不破乱玖珠隊には全く効果がないと判ったとしても、向こうが対処できるのは、同じ槍で立ち向かうこと。
しかしここは戦場。
相手に合わせて武器を変えたくても、持参して来ていない武器は装備できない。
そのため相手の足軽は、2間ほどの木の棒の先に、支給された小刀を括り付けている見た目薙刀のような武器を各自が揃えているようだ。
そして、弓兵の位置がかなり前進している。
遠弓は、有利だが距離により威力は落ちる。
鬼美濃の不破乱玖珠隊とて、盾に隠れると言え、身体のすべてが隠れるわけではないし、具足が万能ということもない。
威力の強い矢が際限なく降り注げば、この隊形為すすべもなく防御に徹するしかない。
ー回想ー
鬼美濃は、別に深く考えるでもなく、この槍隊の練兵中に、板垣の爺様に聞いたことがある。
この陣の弱点についてだ。
すると、事もなさげに爺様は
「ホッホッほ。この陣など欠点だらけジャい。」
と笑いながら、この戦法の弱点について教えてくれた。
「そもそも、この陣は、相手が攻めてこなければ全く役にたたん。」
第1の欠点を上げる。
「攻撃範囲が狭く離れた敵には手も足も出ない。」
第2の欠点を上げる。
「すぐに向きが変えられず、横も後ろからも脆い。」
第3の欠点をあげる。
おい、ダメダメじゃねえか。
「しかも、その欠点が分かりやすいので、すぐに相手も気が付くのよね。」
後ろから、鈴の音のような姫様の声がかかる。
「つっ椿様、それじゃあすぐに対策されちまうんじゃありませんか。」
「そうよね、私ならこんな軍隊が現れたら。」
ふむ、姫様なら如何する。
「相手にしないで、そうね本陣を攻めるわ。」
斜め上の答えが返ってきた。
「かっかっかっ、姫様らしいのう。」
板垣の爺はのんきに笑う
「板垣様ならどう攻めます。」
「儂ならそうさのう、城攻めの丸太で突っ込ませるか、猛り狂った熊でもけしかけるかするかな、固まっておるから格好の的じゃわい。」
「大岩を上から落とせば終いよね。あとアユタヤとかにいる象っていう巨大な獣には敵いそうにないわよね。」
なんか恐ろしい化物の名前まで出てきた。
ーこの時期鉄砲はまだ日本には伝来していないのだが、大筒というものは文章として伝わっている。とはいえ、板垣の爺も姫様もそこまで未知の武器を使おうとは言わなかったようだー
(回想終了)
周りの部下に目をやる。
いい面構えだ。
自分たちの何倍もの敵を前に、普通なら逃げ出したくて堪らないくらいの圧力なのに。今日は新兵といえど前を向き。盾をしっかりと構えている。
某は眼前の今川に目を向ける。
城攻めの攻城槌も、大きな丸太も見えない。
牛も、熊使いも現れる気配はない。
まあ騎馬が300騎ばかり足軽の前に集まっている。
姫様は仰っていた。
陣形を見れば、相手の考えの大凡は予想できるものよと。
ふむ、まず、少し近くなった弓が、某らに矢の雨を
降らせ、それと同時に馬で一気に攻めてくるか。
こちらが矢の守りから、体制が整わぬ内に、馬に寄せられては、
陣の綻びもみせよう。
崩れた陣に向かってそのあと一気に足軽が雪崩込み、槍の突き合いとなるか?
合戦の様子が目に浮かぶ。
これはたまらんな。相手の考えが手に取るようにわかるということは、戦
を操るということ。
某のお役目は、今川軍の考えるうように現れ、今川軍の考えるように動き
そして
今川軍が考えもつかない武田の動きまで耐えること。
そして合戦は皆が考える通りに始まった。
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