第1章#8-9 穴切の武田料亭

#8-9 甲斐国 府中内 穴切町 料亭  大永元年十月二十日 1521.10.20 side甲斐足軽衆6人組


今日俺たちは始めて今川と戦った。

といっても6人とも盾持ち組である。

相手を打ち倒したこともなく、ただ号令に従って進んだだけという感じ。


今日は村の先輩に連れられて、始めて甲府の町に飲みに来た。


なんでも、「不破乱玖珠隊様ご一行歓迎の席」というのが特別に設けられているらしい。

村の先輩6人は槍役として、先日の合戦では今川の兵を文字通りやり込めた勇者たちである。


もう町の先々でお礼を言われ、褒められ、持ち上げられる。


おいらたちは、盾を構えていただけなので少し恥ずかしいのだが、先輩たちの後ろを歩いているだけで、何か自分まで偉くなって強くなったような気がする。


「何いってるでぇ~、おまんとうが踏ん張ってかまえてくれたからおらんとうも槍突きに専念できただから、おまんとうもえばっていいずら。」

先輩は優しい、畜生、俺も鍛錬して、次は絶対槍働きしてやるぜ。


初めての料理屋(というか料亭というらしい)に、びくびくしながら入る。

実は先輩もびくびくしているのがよくわかる。


部屋には、すでに部隊のお侍さんたちが上座に座り、芸者さん?を横に侍らせている。


すげ~ずら。こんな綺麗な着物をあしらった娘っこが、ずらりと並んで、三味線やら笛やらにぎやかな音色が聞こえる。


俺らは仲居さんに促されて料理の並んだお膳の前に正座する。


「あーらお侍さん、そんなに畏まらないで足を崩して下さいな。」

優しそうな声がかかり、先輩たちがおどおどと胡坐をかき始める。


「可愛いお侍さんたちも楽になさって。」

といわれても、おいらたちいつもは百姓だし、隣村の五平が、恥ずかしそうに下を向く。


「お、おいらはひゃ百姓なんで、こんなとこ初めてで・・ごめんなさい。」

よ、よく言ってくれた。おいらはとても口を出せない。


「あーら、皆さん今川に対し立ち向かった足軽の皆様とお聞きしておりますわ。皆さま等しく武士でございましょう。」

そう綺麗処に断言されると、何だかそんな気になってくる。


「今宵は皆よく集まってくれた。主らの働きで、今川を退けることが出来た。今後も期待してるからな~。よしあとは原美濃守任せたぞ。」

なんと、今回の席に武田のお屋形様まで顔を出して、ご挨拶してすぐに出ていった。


すげえよこの部隊。おいら、本格的に百姓やめて美濃守さまの隊に入れてもらえないかな、槍さばきがきちんとできる位じゃないと無理かな。


「お頭、お屋形様はどちらへ?」


「そりゃお前、せっかくお北様が要害のお城に避難されているんだから、羽を伸ばすに決まってるだろ、御贔屓をこっそり呼んでるみたいだぜ。」


「えっ、信虎様って、椿様にぞっこんって話じゃ。」


「上半身はな、だがお屋形様の下半身は虎というより猿だからな。」

と軽口を叩く座の右少し奥に、板垣の若がしれっと座ってやがる。やべえあいつ堅いからなぁ


「いやお屋形様はほんとは一途なんだからな。俺が余計な事言ったなんて言うなよ。」

そこで念を押してしまうところが鬼美濃の迂闊なところ。板垣の爺の息子である信

方殿は、美男子優等生なので、鬼美濃の戯言なんぞもともと聞いてもいないのだ。


「分かってますって、あっしらも今夜は無礼講ですから。ご馳走になります。」

なにやら向こうで原美濃様直属の足軽頭のお偉いさんが楽しそうに騒いで、

あれ?綺麗なお姉さんに連れられて部屋を出てくぞ。


偉い人は別室で食べるのかな?


「おい、俺たちにも部屋が取ってあるって本当かな?」

なにやら先輩たちがそわそわしている。


「いや不破乱玖珠隊全部で五百人だぜ、どうせ順番に回ってくるんだろうさ。」


「お、俺順番でもぜひお願いしたいよ。」


「まあ、今はまずこのご馳走を楽しもうぜ。」

なにやらよくわからない先輩たちの会話を横においておいて。


おいらたちは、目の前のご馳走に目を白黒させながら口いっぱいにほおばっている。


「うめえなあ。おいら今回戦番に選ばれて良かった。」


寛太、おめえ今回の戦は今川の大軍が来ると聞いて、さんざん泣きわめいてたじゃねえかい。


でもおいらも本当に生き残れて良かった。


「お兄さんがた、お酒も召し上がります?」

綺麗なお姉さんが、お酒を注ぎに回ってきた。


「ぜ、ぜひお願いします。」

酒器にお姐さんがお酒を注いでいく。


んっ、お湯のように透明だが甘い香り?

ま、まさか


「こ、これ、澄酒ですか。」


「あらまあ、お兄さんご存じなの、そうよお侍さんのために最上級の澄酒をご用意しました。あたしたちもめったに目にしたことがないお酒よ。」


恐る恐る口につける。すっとしたのど越し。

お酒自体そんなに口に出来ないけれど、祭りで出される濁ったどぶろくとは雲泥の差がある。


本当に臓腑に染み入る。生きてて良かったぁあ。


「ううっ。」

隣の六助が涙を流している。


「くくっ。」

実はおいらの目からも汗が・・・。


そして、今宵はそれだけでは済まなかった。


ささ、皆様こちらへどうぞ

「え、どこへ行くんだ。」


そして

連れてこられたのは、蒸し風呂!


そこにはなんと白い湯あみ着を着た


お姉・・さま・・


おいらたちは夢見ごこちの中、生まれたままの姿で

女性の柔肌が当たってしまっているのを感じながら身体を洗われる。


ここは極楽では無いのか?


「お兄さん、もしかしては・じ・め・て?」

「「「「「ぶんぶんぶんぶんぶん」」」」」

一斉に縦揺れ


「いや初めてじゃないです。」

おい五平うそつけー。


「じゃあ正直者からこちらにいらっしゃ~い。」


五平、目が点になっているぞ。

「えっえ・・・。」


「「「「「お姐様ぜひよろしくお願いします。」」」」」


褌を手に、俺たちは奥の座敷の間に誘われた。暗い行燈の灯る夜具が並んでいる。


「御免ね、はあちきが順番に面倒を見ることになってるの。

でもきちんと一から教えてあげるからさ、まずはお前さんからどうぞ。」


綺麗なお姐さんは、しずしずとおいらの手を取り。


「優しく脱がせてね。」


襦袢を震える手で剥いでゆく。


「天女様がいた・・・。」


おいらたちは決してこの夜の事を忘れない。


みな揃って丘を登り、丘の頂上に実る赤い果実を口に含んだ。


その柔らかな桃のような感触に感激した。


丘を越えて、小さな窪地に立ち止まろうとすると、天女様はやさしくおいらの手を引き柔らかな茂みに導いた。


おいらの雑草と違う茂みの柔らかさに戸惑いつつゆっくり先をすすむ。

すると、なんと小さく可愛らしい石仏が佇んでいるではないか。

「ここは強く擦ると痛むから、優しくね。」


笑顔も天女だ。


ゆっくりと宝石のような石仏を愛でる。


石仏の先は深い沼のようになっており、芳しい芳香を伴う泉が湧いていた。


迷わず蜜のような泉の聖水を手に取る。


甘露だ。


先のごちそうも美味かったがこれは比べ物にならない。


「ふふふ、貴方の腰のものも苦しそう。」


俺の竹槍は、いや恥ずかしながら、若筍か。


天女様の御手にしたがい、ゆっくりと皮を剥かれ、筍から若竹に成長する。


「さあ、こちらへゆっくりとお進みなさい。」


渾渾と湧き出る泉は、怪しげな洞窟から湧き出している。


おいらたち5人は、天女様の導きに従い、順々に洞窟を探検する。

みな腰が引けているが、意を決しておいらもゆるゆると進む。


「うっつ・・・・・。はぁぁぁ・・・。」

やはり槍の鍛錬をしておけばよかった。明日から特訓だ。


みな慣れぬ探検に、あっという間に精も尽きてしまったようだ。


不甲斐ない、おいらは槍使いとして、次こそは天女様を制服してみせる。

あれ何で字が違うんだろう。でもなんかこれでいい気もしている。


ちなみに一人抜け駆けして(自称)大人の階段を登っていた五平には、

百戦錬磨のお姐さまが付き、泣きわめこうが奥義を用いられて勃ち上がらせ、腰が立たなくなってものし掛かられて干上がるまで搾り取られたという。


さらにちなみに、先程の先輩たちにを担当した綺麗処達は、百姓出身の足軽武士といえど今川兵をこの手で突きまくり、脳内物質がかなり溜まって高揚してたのであろう。

夜ももう抜群の槍使いであった。


先輩たちの槍さばきは、その日を境にさらに腰に力が入り、今川を恐れさせることとなる。

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