第1章#7-7 今川軍 豪族調略
#7-7 甲斐国 大井郷 富田城 大永元年十月一日 1521.10.1 side福島左衛門尉助春
月も変わり、城内は楽観ムードが漂う。
大井の米を収奪できなかったのは痛いが、とはいえ500石近い米が蔵に入っている。
もう少し積み増ししたいところであるが、まだまだ二月以上は十分戦えるであろう。
雪の舞う前に駿河に凱旋するためにも、早く周りの豪族どもを説き伏せ信虎に寝返らせるが肝心。
「左衛門尉様、浅利の郷より領主殿が参じました。」
よしよし、続々と富田に頭を下げに来るわい、どうれ面を拝んでやらねばなるまい。
「よい、すぐに通せ。」
陣中に、老練な武者姿が、若い従者を2名連れて入ってきた。
「浅利の郷を配する伊予守信在、お目通り感謝する。」
「わざわざの挨拶ご苦労。して此度はいかに。」
「此度の戦、大井氏は中立とお聞きした、浅利の郷も同じく兵は挙げぬゆえ、くれぐれも当地の境を越えることの無き用お願い申し上げる次第。」
「浅利殿は武田の血筋に連なる名家、甲斐のこのような乱国を招いた信虎どもを、共に打ち滅ぼす好機にござる。今川の万の軍勢と共に轡を共にすればあっという間に打ち滅ぼせよう、此度我が今川の敵は信虎ただ一人、決して甲斐を蹂躙しに参っているわけではござらん。」
ちっ、こいつも日和見か、少しは骨のある武将はおらんのか。
「ご参集のお誘いかたじけない。しかし此度の戦、温暖な駿河と違い、田畠の収穫も半月は遅く、浅利の郷も今は総出で稲刈りの折、とてもお味方できる状況にはござらぬ、あと半月お待ちいただければこちらも動けるやも知れぬゆえご勘弁くだされ。」
おやっ?すこし風向きが怪しいのう。
本当は今川に付きたいが、時期的に兵を出せぬか?もう少し揺さぶるか。
「これはこれは、ありがたい。信虎が収奪していった大井の郷の米を、我が今川の兵が今も取り戻して大井の殿にお返ししようと奮闘しておるところ、あと半月もあれば、大井の米も取り戻して、共に今川と馬を並べる次第でござる。
その折には弓で知られた浅利の強兵もぜひとも共にご参集いただきたい。とはいえ、半月の兵を養うも大事、ぜひ《いごころ》異心ござらんと仰せなら、今川の兵糧調達にご協力頂きたい。」
「さすが福島殿、大井の殿も心強い味方に来ていただいた。我が郷も喜んで協力したいところではあるが、今は面と向かって武田の宗家と事を荒立てることはできませぬ。近くの十日市場にて定例の市が立ちますゆえ、その場で郷の米を商家に運ばせましょう。駿河の相場ほどお安くは出来ませんが、甲州の米相場で商いさせていただければ十分の米をお運び出来るかと存じます。」
「うむ、兵糧の移動は信虎に目をつけられようが、戦にかこつけて利にめざとい商人どもを止めることなど信虎にも出来はすまい。富田守備の兵には申しつけるゆえ、大々的に市を開き、商人を呼び寄せよ。一気に城の蔵を満たし、万全の体制で信虎を討ち果たそうぞ。」
「承知いたした。では、周りの商家にも目星をつけて声をかけておきましょう。とはいえ商いの者に声をかけるからには信用第一。全ての物の売り買いは相場通りで商って宜しいとご約束いただいて構いませぬな?」
「勿論、約束いたそう。ぜひ商家と言わず、他の領主にもお声掛け下され。」
「あいわかった。」
その後連日のように、周辺の武田豪族からの使いや、行商の者が富田城を訪れ、
決して信虎の軍に呼応しない事、領内を侵さぬなら、十日市場の市に合わせ領内の産物を向かわせることを約束させていった。
「愉快愉快、甲斐の国の豪族どもも、内心ではすでに信虎を見限っておる、今になっても、各地の領から1頭の馬も国府には向かわず、富田の城参りじゃ。
信虎共も、ちょこまかと包囲しておるつもりであろうが、十日市の商人どもの賑わいを見せつければ、腰を抜かすであろう。一気に兵糧を買い付けて、戦支度を整えるぞ。」
「ようやく目途が立ちましたな、待たせていた兵への支払もそれに合わせて行いましょう。」
「おお、そうじゃな、足軽には半月ごとに米で渡さねばならぬが、ここのところ調達が進まず遅配しておったからの、まずは半月分を順次兵に配給せよ、何、米さえ手に入れば、他の武田の味方など迷惑なだけ、少しくらい高くても買い占めてしまえよ。」
兵糧頭に言い伝えると、本陣に戻る。
市が立つのがあと十日、その折にでも呪いに吉日を占ってもらい軍を起こす日を決めねばな。
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