第1章#4-2 敵を知り・・・

#4-2 躑躅が崎館 大永元年九月八日 夕刻 1521.9.8 side信虎


「御屋形様、透波より連絡あり、今川騎馬数1435騎、うち本陣が320騎全軍で身延まで2里とのこと。」

荻原常陸介が報告に来た。


俺はさっきから椿の腰をひたすらさすって労わっている。

もうすぐ臨月なのだ、今川軍が甲斐に侵攻ということで、椿はこれから躑躅が崎館の北にある要害城に子供たちと避難することになっている。


べ、別に心配はしてないんだからね。

一応のためになんだ、躑躅が崎の館でも大丈夫って言ったけどみんな心配するから、でも椿無しで軍議大丈夫なのかなんて、べ、別に心配なんかしてないんだからね。

大事なことだから2回言っただけなんだからね。


「じゃあ今川軍は総数で8000ぐらいね。少し予想より少ないかしら。」

椿が俺の返事を待つまでもなく声をあげる。


おい、御屋形様に声をかけたんだぞ椿・・・。


「そうすると荷駄隊が1500くらいですかな。荷駄は800頭と、少し少ないでしょうか?」

萩原備中守はなんの疑問もなく椿と会話を進める。


え、なんで人数わかるの?

あの大軍を一人ひとり数えたの?


「うむ、さすが穴山八郎殿、この短時間によくぞ調べ上げた。見事じゃ」

ちょいと威厳をつけて俺はゆっくりと頷いて見せる。

椿がブッと吹き出す。

「そんなわけないじゃない、八郎殿も虎ちゃんも算術なんてからっきしでしょ。」

いや確かにそうだけどよー、俺にも部下の手前ってやつがよー。

「どうやって??」

弟の勝沼信友が食い気味に声を発した。

俺も言いたかったが堪えたんだよね。


「八郎殿には、身延山で戦勝祈願を行うよう指南しました。騎馬衆にお土産にみのぶまんじゅうを振舞っております。これで騎馬の正確な数が判ります。」

荻原常陸介が信友に答える。


「あと、桜清水のお寺から、身延山まではちょうど2里(約8km)なのよ。あの区間は峠道で狭い一本道だから、馬が2頭並んで進むのは無理でしょう、だから馬1頭が8尺位だから、1頭通るのに9尺として1間半(約2.7m)位必要でしょ、馬2頭で3間だから、1町が60間だから馬40頭分ね、1里が36町だからで1440頭が1列で並んで進むと丁度1里の長さになるのよ。」

おい椿、数字が多いのだが、


つまりどういうことだ?


「さよう、そして足軽は、1間に3名が並んで歩くとして残り1里分が並ぶと、大体。6500人ほどになるわけでござるな。」

荻原常陸介の掛け合いに俺は黙って頷く。


つまり俺も判ってるってことだ。

ホントだぜ。

ホントだからな。


「軍勢の食料や飼葉を運ぶ荷駄隊は軍の後から来るけど、大体騎馬の半分の馬が必要なのよだから半数の700頭と予想すると1頭につき2人荷駄付き歩荷が必要だから荷駄隊が1500人くらい。」

椿が楽しそうに話を続ける。


どうしてこんなたくさんの数がすぐにわかるのだ?いや萩原備中守はいいんだよ、勘定方として年貢米の数も合わせるのが日頃の仕事だから。

でも椿は俺とほぼ同い年のはずだけど?


「だから今回の軍勢は7900人に1500人だから・・・総勢9400人とまあ大体軍勢は誇張するから嵩を増すけど、今回は1万を切る数ね。虎ちゃんみんなには1万の軍勢って言っておくのよ。」


「え、兵士の数は8千を切ってるんだからみんなに少なく言った方が安心するだろう。」


「大軍を破る方がやる気が出るでしょ。」


「私たちは1月かけて1440頭の馬を半分にするの。それで勝てるから。」


え、何で?戦って破るんじゃないの?俺いつ必要?


「はいお土産だって」


口に入ったのは透波が一緒に持参したみのぶまんじゅうだった。

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