第3話 第二のふるさと

 母、心配してくれてありがとう。

でも私はやっぱり西のたぬきが好きだ。

結局、結婚には失敗したけれど、東には戻らない。

たぬきだけではなく、第二の故郷となったこの街の人、文化、食べ物、空気、全てが大好きだ。


 随分迷い、人生廻り道をしてしまった。

半世紀を生きた今、これは母も知らない話。

今、私の傍らにはたぬきのように愛くるしいパートナーがいる。

迷い傷つきながら、不器用に遠回りを繰り返す私を、きちんと理解しサポートしてくれる人がいる。


 将来この人と同じお墓に入れるように、少しずつお互いの距離を縮めながら一緒に歩んでいる。


 だから、母、案ずるな。娘は一人寂しく届いたインスタント麺をすすってはいない。食べ比べだって、二人で大騒ぎしながらやっている。ひとつお願いを聞いてもらえるならば、次からはケンカにならないように、二人で分けられる数の緑のたぬきを送って欲しい。


 そして、もう一つ。いつか来るその日。愛しいたぬき君の名字を名乗る日をどうか祝福して欲しい。

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育った街を遠く離れて 穂高 萌黄 @moegihodaka

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