第16話
東の村での遠征を終え、ひとまず騎士団へ戻ることになった。
村の人たちは私たちの訪問をとても喜んでくれ、チーズフォンデュを村の名物にするらしい。観光客が増えて、村の発展に繋がればいいなぁと思う。
今は騎士団に帰って一夜明け、部屋でみんなで集まっているところだ。
「それで、大型の魔物はどうなったんですか?」
村で一報があったが、詳しいことは騎士団に帰ってからということになったため、事情を聞いていく。
「どうやら北の街に魔物が出たらしい。すぐに消えたようだが、情報としては、東の村に出た魔物と同じではないかと考えている」
「おお……ということは、巨大なネズミの魔物ですか?」
「ああ。突然、巨大なネズミの魔物が現れ、『ナニカヨコセ』と言ったようだ。街の者は食物を出し、それを食べた魔物は消えたらしい」
「ほう……」
やはりまた物盗りの犯行。
「東の村から帰って来て早々になるが……。どうする、トール」
ソファに座ったザイラードさんが私を見る。
私はきれいなエメラルドグリーンの目を見返して、笑いながら頷いた。
「行きましょう! また聖女騒動が出たら困りますし。そこから魔物についての悪い噂が立つのは嫌なので」
北の街への遠征希望。
そんな私の言葉にザイラードさんも笑顔を返してくれる。そして、ふっと優しく笑った。
「トールならそう言ってくれるのではないかと思っていた。魔物のことで不安になった北の街の人々もトールが来てくれれば、安心するだろう」
「……そうですかね」
どうだろうか。正直、自分が行っただけで街の人たちが安心するとは思えないが、今回、東の村へ行ってみて、すこし考えが変わった。
実際に巨大な魔物を目にし、森を壊された村人たちは不安そうだった。それが私が訪れたことで喜んでくれ、ついでにみんなの力を借りて森の整備ができたことで、村人たちを笑顔にできたのだ。
ので、ザイラードさんの言葉を否定することなく、曖昧に頷く。
もし、そうであるならば、やはり北の街を訪れてみたい。
「……ただ、今回の北の街はすこし問題があってな」
「問題ですか?」
ザイラードさんが笑顔を消し、眉根を寄せる。
私には問題が浮かばず、はて? と首を傾げると、ザイラードさんが重々しく口を開いた。
「実は、北の街はマッカンダル領になるんだ」
「マッカンダル……。あ、あの王宮で出会った人が治めている土地ということですか?」
「ああ」
ザイラードさんの言葉に、スーッと息を吐き、天を仰ぐ。
あれかぁ……。王宮で嫌な感じで絡んできた男の人。「聖女は私でも手に入れられる」という謎発言を残したあの……。
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