第15話
猫じゃなくなった王子など、いいところがすべてなくなったのと同じ。猫だから許せていた居丈高なところが最高にマズイ。
そして、そんな第一王子にザイラードさんがすかさず自分のマントを外して体を隠させる。そう。裸だからね。猫から人間になると。私の目には入っていない。光ってたからね。
第一王子はフハハハハハッと高笑いをすると、マントを巻き付けた体で颯爽と歩こうとし――
「私は王宮へ帰るぞ! この体であれば、また王位を狙えるはず。私はまだできる!」
――早々に王位への野望の宣言。
さすが第一王子。いつだって前向きだね。さっきまで村の暮らしに思いを馳せていたとは思えない切り替えっぷり。
意気揚々と人間の体で私に向かって一歩踏み出す。
「お前をぎゃふんと言わせるのだ! どうだ! 私は人間に戻ったぞ!」
「やめろ、エルグリーグ。その姿でトールに近づくな」
私に近づこうとしたところをザイラードさんが止める。すると、第一王子がキッと睨んだ。
「邪魔をするな! 私はこいつを――」
第一王子が私を指差す。が、その瞬間に体がまたピカーッとなり――
「……また光ってますね」
「光ってるな」
「「「キラキラー!」」」
――即、猫。
「なぜだーー!!」
響く声はそのままだが、そこにいるのはオレンジ色の毛皮の猫。わぁかわいい。
「人間の善性を取り戻せば、人間に戻れるのではなかったのか! なぜまたこんな姿に……」
「すぐに失ったんだろう」
猫王子がフシャーと毛を逆立てるが、それにザイラードさんは淡々と返す。うんうん。すごく短い善性だったな。善性って儚い。
マントに埋もれる猫を見ていると、そこにパタパタと白いコウモリが飛んでくる。ベルナトッド11世だ。
「魔物の気配が現れたり、消えたり。なんですか、これは……!」
「あ、おかえり。村に来たらいなくなったから、どうしたのかと思ったよ」
「すこしいろいろ見ていました。こんなにも魔物から人間に行き来する者がいるなど……。いったいどうなっているのか」
「本当にねぇ」
普通は人間の善性ってこんなに儚くないだろうしねぇ……。
「なにをまた他人事のように! あなたがそうやって魔物をたぶらかすからこんなことになっているというのに! ワタクシの憧れの魔王を! 待ち望んだこの日々がなぜこのようなことに……!」
ごめんて。
「おい! なぜ人間に戻ったはずが、また猫になったのだ!」
「そのままです。ワタクシは魔に預けた心を改めればいいと申しました。つまり、人間に戻った際は魔に打ち勝った。が、またすぐに魔に染まった。それだけのことでしょう」
「くっ……しかし、私は……!」
「まだまだということだな」
猫王子とベルナドット11世、ザイラードさんで話をしている。まあ、一瞬でも人間に戻れたのであれば、猫王子としては成長と言えるかもしれない。
でも、猫のままのほうがいいんじゃないかなぁ。しっぽを膨らませた猫をそっと微笑んで見つめる。すると、琥珀色の目と視線が合って……。
「また、そのような目で私を見ているではないか! くそっ!」
「かわいいね……」
「やめろ!」
やっぱり猫が一番。
村に来て、とりあえず魔物の被害の救済はできた。村人も喜んでくれたし、おいしいごはんを食べたりまったり過ごしたりできてよかったと思う。
さらに猫王子の成長もあったのならば、ここまで足を運んだ甲斐があったかもしれない。
まだ、聖女のいろいろについては解決できていないが……。
「団長!」
猫に和んでいると、慌てて駆け込んでくる騎士。その手には書簡があって……。
「急ぎで報告が入りました。――また大型の魔物が出たようです」
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