第13話

 結果として、私はザイラードさんに後見人、身元保証人となってもらい、第七騎士団で生活をすることになった。

 とりあえずは王宮での王位継承争いや美人な女子高生とのキャットファイトは逃れたのだろう。

 美人な女子高生に特別な力があるのか。その力により第一王子派がどれだけ王位継承に近づくのか。

 このあたりが関係してきそうな気がするが、私にできることはないので、気にしないことにする。動向についてはザイラードさんが見てくれるらしいし。

 私は騎士団でスローライフをする。するのだ。

 というわけで。


「君たちについて、知りたいのだけど」


 ザイラードさんと話をして、夕食を摂った。

 そして、翌朝。私は騎士団の訓練場の隣で、ペット化した魔物と相対していた。


「オレハツヨイ!」

「ボクモツヨイ!」

「ヨワイイヌ」

「イヌジャナイ!」


 パタパタと空を飛ぶ小さなドラゴンと地面に座る白いポメラニアン。ドラゴンがポメラニアンに「やーい」と声をかけている。

 ポメラニアンはジャンプするんだけども、ドラゴンをそれをわざとギリギリで回避しているようだ。


「ほらほら、じゃれてないで」


 かわいいけれども。

 小さい二人のわちゃわちゃはかわいいんだけれども。


「ソウダ! 名前、ツケテ!」

「名前?」


 じゃれるのをやめたドラゴンが青い瞳で私を見る。

 きゅるんとしてかわいいね。


「ボクモ! 名前、ホシイ!」

「なるほど……」


 ポメラニアンの赤い瞳が私を見上げる。

 うるうるでかわいいね。


「どんな名前でもいいの?」

「イイ!」

「イイヨ!」


 私はその言葉に、ふむと考えた。

 たしかに名前はあったほうが便利かもしれない。


「じゃあ、君はレジェド」

「レジェド?」

「レジェンドドラゴンだからね」


 ドーナッツ屋みたいな感じでかわいくね?


「君はシルフェ」

「シルフェ?」

「シルバーフェンリルだからね」


 ドーナッツ屋方式。その2。


「……アンチョクダナ」

「……アンチョクダネ」


 二人はお互いに顔を見合わせた。

 こんなときは仲良しだな。


「マアイイ。ナ? オレモ名前、ヨンデイイ?」

「名前って、私の?」

「アア」

「え、そりゃいいけど」


 全然いいけれど。

 なので頷くと、ドラゴン――レジェドは私の額にコツンと自分の額をくっつけた。


「名前ヨブカラ、オレノ名前、ヨンデ?」

「うん……」


 不可思議な気配を感じるが、目の前にきゅるんとした青い瞳があるので、勢いに押される。

 すると、レジェドはそっと瞳を閉じた。


「トール」


 呼ばれたのは私の名前。ザイラードさんに名乗った葉野はのトオルというのを覚えていたらしい。

 えっと、これで、レジェドの名前も呼ぶんだよね?


「レジェド」


 言われた通りに名前を呼ぶ。

 すると、なぜか私の体とレジェドの体が――光って!?


「ちょっと、これ……!」


 なにこれ。

 なんで、私、光ってる!?


「契約デキタ」


 慌てる私に、レジェドの声はたしかに笑っている。うれしそうである。


「契約ってなに?」


 聞いてないけれど。明らかな確信犯な空気を感じるけれど。


「契約スル。オレ、トール、ズットイッショ」


 なるほど。わからん。


「契約って具体的になに……?」

「ズットイッショ!」


 全然わからない。

 レジェドはただうれしそうに私の周りをパタパタと飛んでいる。

 その間に光は消え、私の体になにか変化が起こったということもなさそうだ。

 うーんと首をひねると、足元からクーンクーンと音がして――


「ボクモ。ボクモ、契約シタイ」

「あー……」


 鳴いているのは、白いポメラニアン――シルフェだ。

 まあ、わかる。そりゃペット化した魔物が二人いて、一人だけとなにかしら契約? をしたら、そりゃもう一人も契約したいと言うだろう。

 でも、契約内容が謎だ。

 レジェドのはだまし討ちみたいなもの。シルフェともそれをするのはちょっと……。

 なので、悩むと、クーンクーンはより大きくなった。


「ボクモ……。オネガイ。ボクモ……」


 白いポメラニアンが後ろ足二本で立ち上がり、私のひざ下あたりを優しくカリカリとしている。

 必死に伸びた後ろ足と見上げてくるうるうるの赤い瞳。

 ひざ下に当たる前足も、あくまでソフトタッチ。

 ……。


「かわいいね……かわいいね……」


 しようじゃないか。契約。


「これでいい?」

「ウン!」


 私はシルフェを抱き上げ、レジェドのときと同じように、お互いの額をくっつけた。


「トール」


 そして、呼ばれたのは私の名前。

 で、これに名前を呼び返せばいいんだよね。


「シルフェ」


 すると、途端に体が光り始める。本日二回目。

 こんなに体が光る体験なんてないだろうな。ないでしょうね。

 一人でうんうんと頷く。

 そこに、焦ったような声がかかって――


「どうした!?」

「あ、ザイラードさん」


 声の主は訓練場から走ってきてくれたザイラードさん。


「ははっ……体が光っちゃいました」

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