第4話
「私が聖女よ!」
美人な女子高生はそう叫んだ。
そうか。
「あちらが聖女様みたいです」
よくわからないが、本人が言うからそうなのだろう。
あっさり納得すると、ザイラードさんはなんとも言えない顔で私を見た。
「俺はあなただと思うが……」
「私は私だと思わないですね……」
認識の相違。
出会ったときから『救国の聖女』認定をされていたが、一回もしっくりきていない。ので、女子高生がそうだと言うのならば、そっちのが正しいのではないだろうか。
すると、きらびやかな衣装の男性が話を始めた。
「第七騎士団からレジェンドドラゴンの襲来の知らせを受け、私たち王宮軍はすぐにこちらへ飛んだ。半信半疑で転移魔法陣を使ったが、ここに到着して、その知らせが真実であるとわかった。魔の森にいたレジェンドドラゴンの姿がこちらからも見えたからだ」
「最初、レジェンドドラゴンの姿は巨大だったからな。遠くからでも見えただろう」
「ああ。ザイラードが戦っているとは聞いていた。私たちもすぐに駆け付けようとしたのだ。すると、そこに聖女様が光に包まれて現れたのだ……!」
なるほど。理解。
時系列で言うと、
・レジェンドドラゴンが現れる
・ザイラードさんが気づく
・(たぶんここあたりで私が森に迷い込む)
・ザイラードさんが部下を逃がし、王宮へと連絡する
・ザイラードさんとレジェンドドラゴンが戦う
・(たぶんここあたりで私が森をうろうろする)
・王宮軍が騎士団へ到着する
・王宮軍がレジェンドドラゴンの姿を確認する
・光に包まれた美人な女子高生が騎士団に現れる
こうだろう。
私が迷子になっている間に、いろいろとことが進んでいる。
「聖女様はな! ドラゴンを見つけた瞬間に祈ったのだ!」
「祈る……」
それはすごい。
私はドラゴンを見つけた瞬間、「うわぁドラゴンだぁ」って感嘆してしまった。ドラゴン見つけて祈ろうなんて、生きてきて一度も思ったことがない。瞬時にできた女子高生はもはや別次元の存在だ。たしかに聖女っぽい。
「その瞬間、ドラゴンは消えた! 聖女の力で浄化されたのだ!」
「はい。私にはそういう力があると思います」
きらびやかな衣装の男性の隣で、美人な女子高生は自信たっぷりに頷いた。
たぶん、この子がそう言うならばそうなのだろうと思わせる力がある。
私は右肩をちらりと見た。
「だってさ。君、浄化されたみたいだよ?」
「浄化サレテナイ! チイサクナッタダケダ!」
「まあ、これでどうして小さくなったかわかってよかったね」
美人な女子高生に祈られたからだ。
平凡な会社員に手をかざされたからというより、ちょっとは箔があるだろう。よかったよかった。
私が「うんうん」と頷くと、ドラゴンは抗議するように、パタパタという羽音を大きくした。私の頬に当たる風が強くなる。
「風強い、風強い」
適当にかわしていると、ザイラードさんが私の手を離した。
そして、女子高生のほうへと向かっていく。
「……あなたは、あの小さなものをどう思いますか?」
「あの女性の肩のいるのよね? なにも思わないわ」
「……浄化とはどういうものですか?」
「それは……その、うまくは言えないわ。人に説明してもわかってもらえる感覚ではないから」
女子高生は後半は言葉を濁すと、ザイラードから姿を隠すように、きらびやかな衣装の男性の後ろへと回った。
「ザイラード、威圧するのはやめろ」
「……そんなつもりはないが」
「お前は常に人を恐怖させるんだ。気をつけろ」
きらびやかな衣装の男性は、女子高生を守るようにザイラードさんの前へと立った。
「私はこの女性を救国の聖女として王宮へと連れていく」
「……それならば、彼女も一緒に。俺は彼女こそが国を救ったと思っている。この目で見たからだ」
「お前はドラゴンと戦っていたから、よくわからないうちにドラゴンがいなくなって戸惑っているんだろう」
男性はザイラードさんの言葉をハッと鼻で笑った。
「そうだな、たしかにそこにいるのも、この国の服ではないものを着ているな」
そして、私へと視線を移す。……が、いやな感じだ。
「まあ、一緒に連れて行ってもかまわないが」
その目から嫌悪が漏れ出ている。
というか、隠そうともしていない。
救国の聖女様を見つけた! と盛り上がっているところに、ザイラードさんとともの帰ってきたのがよくなかったのかもしれない。しかも、ザイラードさんは私のことを聖女だと主張しているし……。
本当は捨て置きたいが、ザイラードさんの言葉を無視できないため、面倒に関わっているというのが、ひしひしと伝わる。
正直、初手からこんなに嫌われている人と一緒に行きたくはない。しかも、周りの空気から感じるに、それに対して意見を言えるのはザイラードさんぐらいに見える。
立場のある嫌味な人に嫌われるって、それどんな仕事の続き……。ようやくねちねち嫌味上司に絡まれながら仕事を終えたというのに、まだ今日という一日は続くのか……。
死んだ目になる。
すると、きらびやかな男性は私を見下しながら、指差した。
「おい、お前。ザイラードにうまく取り入ったな。お前が聖女などありえないが、二度とそのように欺くことをしないのならば、連れて行ってもいい」
行きたくない……。
が、異世界に迷い込んでしまった私は屋根のある寝床も食事もないのである。縁もよすがもお金もない。
となれば、お世話になるしかないだろう。しかたがない。
ザイラードさんも、この人に私を連れていくように頼んで(?)いたし。
聖女と欺くな~と言っているが、欺くもなにも、私だって自分がそうだとは思っていない。
美人な女子高生と平凡な会社員。聖女はどちらかと聞かれたら、それは女子高生だ。私もそう思っている。
のに、私の話も聞かず、一方的に私が聖女を騙り、ザイラードさんに取り入ったと言われると、ムカムカする。
疲れてるんだよ、こちらは。これ以上疲れさせるんじゃない……!
思わず表情に出そうになる。
その瞬間――
「うるさい」
――バキッとなにかが当たる音が鳴った。
「俺は彼女を救国の聖女として連れて行ってほしいと言ったんだ。勝手に話を進めて、彼女を貶めるようなことを言うのは許さない」
「な……な……っ、ザイラード、殴ったな!?」
「用が済んだなら帰れ」
きらびやかな衣装を着た男性が地面に尻もちをつき、頬に手を当てていた。
ザイラードさんはその前に立ち、低く響く声で淡々と告げている。
私には背を向ける形なので、表情は見えない。が、すごく怒っていることは伝わってくるな……。
私も一瞬、怒ったはずだが、私以上に怒ったザイラードさんを見て、スンッと落ち着く。
え、というか、大丈夫? ザイラードさん殴っちゃったの? え? なんかきらびやかな衣装の男性、位が高そうだけど……!?
「申し訳ない。いやな話を耳に入れてしまった」
ザイラードさんは地面に座り込んでいる男性から離れて、私の元へと戻ってくる。
普通にイケメンな表情で、優しい声だ。
「疲れていると言っていただろう? こちらへ。まずは休める場所へ案内する」
そう言って、右手を差し出してくれる。また手を取って案内してくれるつもりのようだ。
自然に私も手を載せると、温かな体温が伝わる。……この手で殴ったのだろうか。
私の疑問が顔に出ていたようで――
「大丈夫だ。殴ったのは反対の手だ」
――ザイラードさんはいい顔で笑った。
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