第3話
「あなたの名前は?」
「あ、
「ハノ・トール」
「はい」
金髪イケメン、えっと騎士団長? のザイラードさんの名前を尋ねられたので答える。発音とかがしっくり来ていないので、漢字変換されてない気がするが、まあいいか。
それよりも気になっていることを聞かねば。
私はザイラードさんに手を取られ、森を歩きながら、気になっていることを聞いた。
「あの、ここどこです?」
そう。ここどこなのか問題。
「ここはギルアナ王国の国境付近。魔物が住む森だ」
「ほぅ」
なるほど。OK。これでここどこなのか問題は解決した。
「全然わからないですね」
仕事で疲れ、脳が停止した私には到底理解できないという、結論。
「あの、日本って国は知っていますか?」
「ニホン?」
「あ、いえ、いいです」
ザイラードさんのきれいなエメラルドグリーンの瞳が不思議そうに私を見た。そして、その瞬間に悟った。
――ここ異世界じゃね?
「……あの、異世界から来たって話をしたら、信じます?」
怪しいことは重々承知。だが、聞くしかない。
なので、エメラルドグリーンの瞳を見上げてみると、ザイラードさんは思ったよりも不審な表情はせず、ふむ、と考えるように目を伏せた。
「こことは違う世界、ということだろう。あなたはつまり、異世界から来たのではないか? ということか」
「はい、そんな感触がしています」
ザイラードさんって考え方が柔軟だな。初対面の人に「あなたは異世界を信じますか?」と聞かれて、「あなたが異世界から来たということですか?」と返せる人がいるだろうか。
たぶん、私が日本でそう言われたら、とりあえず交番に案内しちゃうよね。
あ、そう。交番。
「あの、ここが異世界だとして、私はここでどうしたらいいのか……。私みたいな人が困ったときに世話になるような場所ってありますか?」
警察とか交番とか、そういうのがあればいいんだが。異世界じゃなければ、大使館などが思い浮かぶが、なんせここ、異世界だしな……。
不安の中、疑問を投げると、ザイラードさんは私を安心させるように頷いた。
「それについては心配ない。俺はこの国境付近を守っている騎士団の団長をしている。先ほども伝えたが、第七騎士団の賓客として、案内したい」
ひんかく……賓客? つまり客人として扱ってくれるということだろう。
先ほどもそう言ってもらったのだが、どうやら本気のようだ。とりあえず、屋根のある寝床と食事があればありがたい。
「すみません。状況がわかって、事態が呑み込めて、なんやかんや理解が進めば、それなりに考えて、立ち回るので……」
たぶん。きっと。
一応、会社員なので、なにもせず延々と無駄飯を食らうぞ! とは思ってはいないので……。
「申し訳ないんですが、落ち着くまで、お世話になってもいいでしょうか」
そこまでしてもらうなんて気が引けるし、すぐに信じるなんて危ないかもしれない。が、手を引いてくれるこの温かさが私の警戒心を解いていく。
それに一度も私を不審者扱いしないのも好感がもてた。
よくわからないまま森に放り出された先にザイラードさんがいてくれたことが幸運としか思えない。
ので、ザイラードさんの優しさに甘えようとぺこりと頭を下げる。
すると、落ち着いた声が掛けられて――
「俺はあなたを救国の聖女だと思っているし、そう伝えるつもりだ。落ち着くまでと言わず、ずっといてくれて構わない。それに、異世界から来たということならば、それについても情報収集に協力したい」
「え、神かな」
ザイラードさんの優しい言葉に思わず言葉が漏れる。
こんな怪しい会社員にこんな温かい言葉を……。輝く金色の髪の奥から後光が差している。
「俺はあなたに命を助けられた」
「……本当ですか、それ?」
「ああ。その肩にいるレジェンドドラゴンに殺されるところだった。そして、気まぐれに国も滅ぼされるところだったからな」
「……この小さくなったドラゴンが?」
「最初に見たときは大きかっただろう? レジェンドドラゴンは最強クラスの魔物だ。部下を先に帰らせて、伝達を頼んだ。今頃、転移魔法陣で王宮から王宮軍が到着しているころだろう」
「おうきゅうぐん」
なんかすごそうな単語が出た。
「俺はレジェンドドラゴンを見つけたときにはすでに死を意識していた。王宮軍が到着するまで、せめて、レジェンドドラゴンの到着を上層部へ伝えるまで。その一瞬のために時間稼ぎがしたかった」
自らの決意を淡々と話すザイラードさん。声の調子が変わることはなかったが、だからこそザイラードさんの意志の強さと、本気が感じられた。
私が「ドラゴンだぁ」とのんきに声を上げていたとき、ザイラードさんは国のため、自らの命を差し出している真っ最中だったというわけだ。
「あなたが一瞬でも遅ければ、レジェンドドラゴンはブレスを吐き、俺の命は終わっていただろう。あなたがドラゴンを小型化し、さらにこうして親愛も向けられている。俺はそれを――奇跡だと思った」
ザイラードさんはきれいなエメラルドグリーンの瞳をまぶしそうに細めた。
その表情と言葉に私はなにも言えなくて……。
「あなたが異世界から来たというのならば、それこそ救国の聖女の証だと思う。あなたの功績に見合うもてなしができるかはわからないが、あなたの暮らしが良くなるよう、努力させてほしい」
……きらきらしているわぁ。
なんかわからないけど、拝みたくなる。
私はそっと両手を合わせた。
「神だ……」
そうして、異世界転移したことと、レジェンドドラゴンという最強クラスの魔物(?)を小型化したのかもしれない、ということまではうっすら理解できた。
あと、ザイラードさんが神で、騎士団のお世話になれば、生活に問題はなさそうなことも。
お互いの認識のすり合わせが終わった私たちは森の出口へと向かった。森の出口には馬がいて、森から騎士団までは馬での移動となった。
馬は一頭しかいないし、普通自動車(AT限定)運転免許しか持っていない私が馬に乗って颯爽と進むことはできない。
ので、恥ずかしながらザイラードさんと二人乗りをして、騎士団へと向かったのだが――
「聖女様だ!」
「聖女様のおかげで国が救われた!」
「伝説にある救国の聖女様だ!」
――騎士団は救国の聖女の登場に熱狂していました。
ちなみに私のことではない。
私がザイラードさんと騎士団についたときにはすでにフロアは最高潮だったので……。
「……救国の聖女はここにいる」
盛り上がる面々に、ザイラードさんが低い声で、けれどしっかりと通るように告げた。
その言葉に熱狂していた空気が一瞬で静まり返る。
そして、私へと視線が集まり――
「なんだそいつは」
――聞こえたのは、バカにしたような声だった。
「ザイラード、遅れてやってきてその言い草はなんだ! その一緒にいるのが救国の聖女だと? 笑えることを言うじゃないか」
無駄にきらびやかな衣装の男性がやれやれと肩をすくませる。
「レジェンドドラゴンの襲来に対し、異世界からやって来られた救国の聖女様はこちらだ!」
そう言って、偉そうに胸を張った男性が、隣にいる女性を示した。
そこにいたのは――
「わぁ美人な女子高生」
――とてもかわいいセーラー服の女子高生でした。
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