第10話 金曜日は餃子の日

 洗濯機を回した後は、夕食の準備に入る。

 我が家では、金曜日の夕食は餃子という暗黙のルールがあるので、今日は献立に悩まなくて良い。

 事前に買い置きしておいた冷凍ギョーザをフライパンに並べ、火加減を見た後にフタをする。後はキッチンタイマーで三分をセットし、三分毎に焼き加減を見るのだ。

 餃子を焼きながら、冷蔵庫から作り置きしたおかずの皿を出し、順にレンジで温めていく。それらの作業をしながら、さらに食洗機の中の食器を一つずつ出し、布巾で残った雫を拭き取りながら、すぐに使う皿や箸は盛り付け用の台に置き、使わないものは食器棚へ戻していった。

 餃子が焼き上がる頃には、食洗機の中を空にし、作りおきのおかずも温め終わり、盛り付け台には夕食で使う皿が載っている。

 十八とおやは焼けた餃子や温めたおかずを、各自の皿に一人前ずつ盛り付け、残ったおかずは自由におかわりが出来るように、取り箸やスプーンを添えて、食卓の真ん中に置いた。

 そうして、全てのおかずを小分けし、白いご飯も茶碗に盛って温めると、居間でくつろぐ子供たちに呼びかけた。

「おーい、ご飯出来たよ~運ぶの手伝って~」

「はーい」

 テレビを見ていた春花はるかが先に応えると、ソファーを下りて台所へ来る。

「はい、これ。春花の分な。落とすなよ」

「うん。エヘヘへ」

 餃子が好きな春花は、うれしそうに受け取ると、食卓の自分の席へ運んだ。

 次に柱基よしきか、と見ると、まだソファーの上で動画を見ている。

「柱基、ご飯ができたよ。取りに来なさい」

「うん、わかってる…もう終わるから」

 どうやらアプリを終了させているところらしい。スタンバイ状態になるとソファーの前のテーブルに置き、ようやく台所へやってくる。

「ちょっと待った、柱基」

「うん?なに?」

「スマホを使わない時は充電しときなさいよ」

「え?あーそうだった」

「次に使う時、充電切れしてたら嫌だろ?」

「うん、嫌だ」

 そう言うと、柱基はソファーに戻り、スマホを手に取る。そして、テレビの横まで移動すると、家族共用で置いている充電器に差し込んだ。

「ねえ、お父さん」

 居間から台所に戻る時、柱基は何かを思い出して聞いてくる。

「うん?なに?」

 柱基の分の皿を渡しながら返事をする。

「お父さんはブロドラやってる?」

 先に席についた春花が「お父さん、食べていい?」と聞いてくる。

 柱基は食卓の自分の席に座ると皿を置き、お箸と茶碗を手に取った。

「ブロドラ?ブロック&ドラゴンのこと?と、いただきますを言ってからね」

「いただきま~す」

「うん、それ。いただきます」

 柱基も春花に続いて食べ始める。

「お父さんはやってないな~」

 言いながら、十八は冷蔵庫まで戻ると、千切りキャベツ用のマヨネーズとドレッシングを取り出す。

「そうなの。じゃあいいや」

 マヨネーズとドレッシングを食卓に置くと、春花が早速ドレッシングを取って、自分の千切りキャベツにかけた。

「そのゲームは、誰か友達がやってるの?」

「お父さん、餃子のタレはないの?」

 春花が思い出して聞いてきた。

「なかちゃんがやってる、っと、僕もタレほしい」

「はいはい、あるよ。で、なかちゃんがやってるから、柱基もやりたいの?」

 冷凍ギョーザの添え物のタレがあったことを思い出し、台所の方へ取りに行く。

「ううん、僕はやらないけど、なかちゃんが、曹操がリーダーの人がフレンドになってほしいって言ってたから」

 タレと小皿を一緒に持って、食卓の二人に渡す。

「あ~なんかあるね~フレンドになったら協力してもらえるゲーム。ブロドラもそういうやつなの?」

 春花がうれしそうにタレと小皿を取るが、小袋タイプのタレがうまく開けられない。

「そうみたい。だからお父さんが曹操持ってないかと思って」

 柱基はなんとか手で破り、小皿の中へ注いだ。

「持ってないというか、やってないからな~でも、今は小学生でもそんな遊び方をするんだね~お父さんが小学生の頃は、スマホも無かったからな~」

 春花のタレの小袋を受け取ると、端を破って小皿に注いでやる。

 春花はうれしそうに笑った。

「ああいうゲームをやると忙しくなるから、僕はやらないけど」

「そうなの?じゃあ、いつもスマホを触ってるのは何をしてるの?」

 空いたタレの小袋を取ると、台所のごみ箱へ入れる。

「僕は…料理の動画を見てるよ」

「料理の動画?って、どんなヤツ?大食いの動画とか?」

 お茶のポットを持ち上げると、二人のコップに注いでやる。

「ううん、違うよ、料理を作ってる動画」

 柱基はマヨネーズを取ると、千切りキャベツにクルクルかける。

「料理を作ってる動画?作ってるのを見て面白いの?」

 不意に柱基の目がキラリと輝く。

「面白いよ~同じ小学生の女の子がやってるお料理動画がすごいんだよ~コーランて子の『コーランちゃんねる』ってやつ。中華鍋でチャーハンを三人前炒めてるとこなんかこう、スッゴクかっこいいんだよッ。あと、大根の極薄桂剥きとかッ、高速出汁巻き玉子とかッ、アルデンテの十人前パスタとかッ、見てるだけでも勉強になるんだッ」

 キラキラした目で力説してくる。

「へ、へェ~柱基にそういう趣味があるとは思わなかったな~」

 横で聞いていた春花が、不思議そうに問いかける。

「お兄ちゃんは、お料理の上手な人が好きなの?」

「え?イヤ、えっと、そういうんじゃなくて……なんていうんだろ…すごい技をやってる人を見るのが好きなのかな?あと、あんな風にぼくも出来たら楽しそうだなァ、とか…そういう感じ。わかるか?」

「わかんない」

 餃子を一つ口に入れながら、春花はニコニコと答えた。

「あ、そう……」

 あ、あははは…と、柱基は力なく苦笑する。

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