異世界から異議あり……あれ?〜異世界はどこ?〜

鋼鉄の羽蛍

異世界へ転生……してなるものか!

 世界は異世界転生の流行である!


 そんな見出しの書物が書店を埋め尽くし、書店も売れぬと生存に関わるゆえそれらを大々的に宣伝する時代。


 オレは今日も今日とてリアル街で普通の生活を過ごしている。だが――


『あなたを今日こそ異世界へと転生させます! 喰らいなさい! 』


「って、ふざけるなっ! この神とやらっ! 」


 脳内に響く声は、最近しつこく異世界への転生を企てる神とやら。その神が躍起になり、オレへあらゆる手段を用い転生するキッカケを生まんとする。


 今日は――


「くっ……自動車やダンプの突撃は無駄と察したか!? 今度は重機の突撃――」


『甘いわね! そうと見せかけて、重機アームがあなたを襲うわっ!』


「対して変わらん! ほっ、と! 」


 街を歩くオレの側面から重機が来るかと思いきや、ショベルカーであったそれのアームがオレの鼻先を掠めて行く。すでにこんな事を毎日繰り返すウチ、ヤツの手の内が読めて来た所だ。


「神とやらが〈ウリアゲ〉なる力会得をいくら求めようと、オレはそんなお前達の傀儡にはならん! 異世界転生など断固拒否だ! 」


『そう言っていられるのも今のウチです! 世は異世界転生なくしては、もはや立ち行かないのです! 異世界転生の文化を、あろう事か世界に発信してしまった時代――』

『それは詰まる所、世界へ無限に異世界転生と言う物語を広め続けなければならないと言う、逃れられぬ因果を背負ったも同義なのです! 』


「片腹痛いな! この語彙力不足な文章構成と、定番化し過ぎた狭い世界のどんぐりの背比べを、国の文化として世界へと広げるだと!? この国もとんだ恥晒しだな! 」

「他国に、我が国の文化を鼻で笑われているのが目に浮かぶ! ある意味恐れ入った! 」


 手の内が読めるとは即ち、この神も定番化した方法での異世界転生を望んでいると言う事だ。故にヤツの狭くこすい手段は、極めて局所的な物語の冒頭と同義。


 それを想像さえすれば、転生させられる事を回避するなど造作もなかった。


 けれどオレはいつまでこんな茶番に付き合わされるのか。それだけが頭を痛くさせる。恐らく神とやらは、その根負けをも狙っているのではと思えるほどだ。


『異世界転生者を生み出し……私のウリアゲをーーーっっ!! 』


「おもくそ素が出たぞ、神とやらっ(汗)!? だが断るっ!! 」


 それからもオレは、神とやらに付き纏われた。異世界へ頑なに転生させんとする、己の利益しか見えぬ天上のなにがしに。


 だが奴は知らない。

 オレがヤツから逃げ回っている間に、肝心な異世界は転生者が一切訪れない平和を享受している現実を。


 それは、オレがいつも持ち歩いているライトノベルだ。


 文章はまるで自然がそこにあるかの様に表現され、音さえ紡がれる言葉で想像出来る。さらに文面から想像出来る情景は、情緒豊かな大自然。そこで数多の種族が何の隔たりもなく過ごす、異界の文化遺産とも言える美しき光景。


 オレはそんな、本来あるべきファンタジーの世界が好きだ。


 故に――



 異世界へ転生などして……なるものかっっ!!!




――混迷の世界は果たして、どこへ行こうとしているのか……――

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