第51話 勇者の母、ド正論をかます

 だがアルカは唐突なことに頭がついて行かず、慌ててクロアに抗議した。



「ちょ、ちょっと待った! 父さん、いきなり仲間とか言われても!」

「拒否権はない。諦めろ」

「せめて人権は保障してくれ……!」

「なら仲間の当てがあると?」

「そ……れは、ないけど……」



 事実、アルカも仲間がいないことに不安を感じていた。

 魔王軍と戦うのに、自分一人では無謀がすぎる。

 だからいずれ仲間を探す必要があるのは理解していた。

 が、その仲間すら親に用意されるというのは……。



「ふむ。大方、俺に仲間すら用意されるのはカッコ悪い、とか考えているんだろう」

「う」



 図星だった。

 今まで散々恥を晒してきた。今更恥じることはないが、気持ち的には割り切れない部分もある。

 黙って目を逸らすと、見かねたウィエルがアルカの肩を叩いた。



「アルカ、あなたの使命はなんですか?」

「……魔王を倒すこと」

「そうです。魔王を倒し、世界の人々に平和をもたらすこと。それが勇者たるアルカの使命です」



 それはわかっている。だが、何故今そのことを言うのかわからない。

 首を傾げると、ウィエルは天使のような微笑みで口を開いた。



「あなたのつまらないプライドで、平和は手に入れられるのですか?」

「ぐっ」



 ピンポイントで突き刺さった。

 まさに正論。ぐうの音も出ないとはこのことだ。

 確かにサキュアとガーノスを拒否しているのは、自分のプライドに過ぎない。

 仲間すら自分で決められないという、ある種行動を制限されていることへの反発だ。

 何も言い返せないアルカへ、ウィエルはさらなる追い打ちをかける。



「ガーノスさんはこの世界でも屈指の実力者。そしてサキュアさんも、成長すれば魔王軍四天王に匹敵するほどの才能を持っています。これ程の逸材を、人脈もないアルカが見つけられるとでも? 世界にどれ程の人間がいるか知っていますか? 亜人も含め、約五十億人。これ程の人間がいる中、魔王軍四天王と渡り合うだけの才能を持つ人間を探せますか? これはただ旅をしていれば仲間が見つかるような、都合のいいおとぎ話じゃありません。仲間を探すだけで人生が終わりますよ。あなたはそんなことをしている暇はあるのですか? ただでさえ三年という貴重な時間を無駄にしたのに? そんな余裕がどこにあると? そもそも──」

「ストップストップ。ウィエル、ストップ」



 余りのマシンガンド正論酷評に、思わずクロアが止めに入った。

 案の定、号泣の上に鼻水を垂らして打ちひしがれているアルカ。

 ウィエルの言葉が的確すぎて何も言い返せず、ただ心がボロボロにされただけだった。

 因みに、対ドドレアル配下戦でマシンガン酷評を受けたミオンも、そのことを思い出して地味にダメージを受けていた。



「むぅ。あなたが言うなら、ここら辺で許してあげます」

「はい……」



 当然ずっと一緒に暮らしてきたから、ウィエルのマシンガンド正論酷評を受けるのも初めてではない。

 でもどれだけ受けても、こんなの慣れない。心がズタボロにされて病むレベル。



「ま、という訳だ。アルカ、変に意地を張るな。プライドじゃ誰一人救えない。出来ないことは誰かに任せろ。お前はお前のやれることをやるんだ」

「なんかもう、俺に出来ることなんてない気が……」

「魔王を倒す。それ以外何も考えるな」

「……わかった」



 クロアの言う通りだ。個人で出来ることなんてたかが知れている。

 なら、今出来ることを極めていくのが、アルカにとって最善だ。

 アルカは立ち上がると、顔を引き締めてサキュアに手を差し出した。



「改めて、アルカだ。これからよろしく頼む」

「はい。よろしくお願いします」



 優雅にお辞儀をするサキュア。

 だが一向に手を取ろうとしない。

 ハイエルフには握手の文化がないのか? そう考え、苦笑いで手を下した。



「えっと、今のは握手と言ってな」

「あ。握手は知っていますよ」

「……じゃあなんで手を取ってくれなかったんだ?」






「汗まみれ、泥まみれ、涙、鼻水でばっちかったので触りたくないです」

「ゴフッ!?」






 超満面の笑みで放たれた言葉が、アルカの胸を貫いた。



「握手をしたいなら、まずお風呂に入って来てください」

「はぃ……」



 意気消沈したアルカが、ミオンの案内で風呂場へと向かっていった。



「サキュアも中々言うな」

「はい。クロア様とウィエル様の代わりに、私がアルカ様を監視するのです。お二人の名前に泥を塗らないよう、しっかりと役目を果たさせていただきます」



 ふんすっと息巻くサキュア。

 そんなサキュアを見て、この場にいる全員苦笑いを浮かべるのだった。

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