第37話 勇者の父、第一王子に会う
とりあえずアルカはそのまま放置するとして。
クロアたちはアーシュタルと共にアルバート王国騎士団総本部へと向かっていた。
「今日はコルトが地方の査察から戻ってきたタイミングでな。是非とも会ってほしい」
「懐かしいですね。最後にお会いしたのはコルト様が五歳の頃でしたか」
「もうそんなに昔か。私も歳を取るわけだ」
「今でも負けたら泣きわめいたりするのですか?」
「ははは! 流石にそこまで子供ではないぞ。あれでもアルバート王国最強の騎士だからな」
「ほう、最強の騎士」
クロアの目の色が変わった。
クロア自身は最強の称号に拘ったことはない。だけど腕に覚えのある『男』として、王国最強の騎士と聞いたら血が騒ぐ。
「あなた、今日はお話を聞くだけですよ」
「うっ……わ、わかってる」
「本当ですか? 相手はもう大人で、更に一国の王子ですよ。アルバート王国の王位継承権第一位ですよ。何かあったら打首獄門だけじゃ済みませんからね? いいですね?」
「……はい……」
つらつらとウィエルにたしなめられているクロア。
珍しい光景を見て、ミオンとアーシュタルは笑みを浮かべた。
「それにしても、クロア様とウィエル様ってそんなに昔から王族と交流があるんですね」
「ああ。もう二十年くらいになる」
「ということは、コルト様は二十五歳……?」
「そういうことになる」
クロアは何の気なしに頷いているが、その言葉にミオンは固まった。
二十五歳という若さでアルバート王国最強の騎士。どれほどの才能と、どれほどの努力を重ねてきたのだろうか。
城内を歩くことしばし。
四人は王城から離れた場所にある神殿のような建物へやって来た。
ここはアルバート王国騎士団一番隊の隊舎でもあり、騎士団の総本部でもある。
隊舎の前で走り込みを行っていた騎士の一人が、アーシュタルの姿に気付いて敬礼した。
胸当てに刻まれた鷹と一つ星の紋章が銀色に輝いている。これは、一番隊副隊長の証だ。
「こ、国王陛下!」
「あー、よいよい。楽にしてくれ。それよりコルトはいるかな?」
「は、はいっ。団長は現在執務室に……ご案内致します」
「頼む」
騎士に連れられ、隊舎の中を歩く。
中は綺麗に保たれていて、傷一つなく、ゴミも落ちていない。
見かける騎士たちも、どこか気品があり神聖なオーラを纏っているように見える。
と、その時。
「整列! アーシュタル国王陛下に、敬礼ッ!!」
一番隊副隊長の号令により、騎士たちが廊下に並んで敬礼する。
流石訓練された軍団なだけあり、一糸乱れぬ隊列だ。
彼らを横目に、廊下の奥へと進む。
全く乱れない姿に、ミオンは少し怖くなってウィエルの腕に抱きついた。
「あらあら。怖がらなくても大丈夫ですよ。皆さん、とても優秀な騎士ですから」
「は、はい……」
わかってはいるが、武装した軍団というものにちょっと……いや、大分抵抗がある。トラウマというものなのだろうか。
入り組んだ廊下を歩いていく。
すると、廊下の最奥に木製の扉が現れた。
「団長、国王陛下がお目見えです」
「……何、陛下が? お通ししろ」
「ハッ。失礼いたします」
副隊長が扉を開け、アーシュタルを先頭に執務室に入る。
書架には大量の本や書類が収められ、反対側の壁には巨大な王国地図が掛けられている。
そんな部屋の奥にいた一人の男。
金髪の美丈夫で背が高く、キリッとした目元。
一見戦闘なんて縁のなさそうな、優しい空気をまとっている。圧というものを一切感じない。
胸元には、鷹と一つ星の紋章が
銀色は副隊長。そして金色に光るそれは、隊長の証。
更に外から風が入り込み靡くマントにも、同じく鷹と一つ星の刺繍が編まれている。アルバート王国騎士団団長に受け継がれるものだ。
コルト・メザイア。アルバート王国第一王子だ。
コルトは跪き、アーシュタルに頭を垂れた。
「陛下、御足労いただき、ありがとうございます。本来なら私から伺わなければならなかった所を……」
「よい。面を上げよ」
「ハッ、失礼いたします」
立ち上がり、改めてアーシュタルを見て……違和感に気付いた。
アーシュタルの後ろに、壁がいる。いや、ある? どちらでもいい。だがそこには壁なんてなかったはずだ。
ゆっくり顔を上げると──。
「にっ、にっ、にににににっ、兄ちゃん!?!?」
さっきまでのキリッとした顔付きが、クロアを見て満面の笑みになった。
まるで久々に会った飼い主を見て尻尾を振るわんこみたいだ。
昔と変わらない姿に、クロアとウィエルは笑みを零した。
「よっ、コルト。……じゃないな。お久しぶりです、コルト様」
「コルト様、お元気そうで」
「や、止めてよ兄ちゃん。それに姉さんも。昔と同じでいいからさ。今も昔も、俺にとって二人は兄ちゃんと姉さんなんだから」
今度はシュンと落ち込んでしまった。
ミオンも、遠目からだが何度かコルトの姿を見たことがある。それに武勇も聞いているが……こんな子供っぽいところがあるなんて思いもよらなかった。
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