第30話 勇者の父VS魔剣帝ドドレアル
「はぁ……終わりましたぁ」
「ご苦労さん」
「あ、ありがとうございます……っと、あれ……?」
聴覚探知で隠れている魔物まで倒し終え、クロアたちの所に戻ったミオン。
しかし気が抜けたのか、まともに立っていられず座り込んでしまった。
「ご、ごめんなさい。腰が抜けて……」
「気にすることはない。相手が魔王軍とはいえ、初めて生き物を殺したんだろう? そうなるのも仕方ないさ」
クロアが励ましの言葉をかけるが、その言葉で思い知った。
殺す覚悟は出来たと思っていた。いや、思い込んでいた。
覚悟を決め、生き物を殺す。
言葉にするのは簡単で、実行するのは難しい。
さっきまでは生き延びるためにがむしゃらにやっていた。
だが終わってみれば、脚に生き物を殺した感覚が生々しく残っている。
「確かに……これはキツイですね」
「だろう。他者を殺すということは、自分が生き残るということだ。殺す覚悟というのは、命の上に成り立つ。これは言葉ではなく、実感しないとわからない」
クロアは諭すようにミオンの頭を撫でる。
手の平から伝わる熱と優しさが、少しずつミオンの脚に残る違和感を和らげてくれた。
「前にも言ったが、殺す感覚には慣れないといけない。だが殺すことに慣れてしまえば、それは狂人と変わらない。よく考えることだ。考えることも修行だぞ」
「……はい。ありがとうございます」
ミオンはお礼を言うと、ようやく足腰に力が戻って立ち上がった。
そんなミオンを見て、「それにしても……」と苦笑いを浮かべた。
「がむしゃらもいいが、もう少し注意力も付けなきゃな」
「え?」
「後ろ」
クロアに言われて振り返る。
そこには、顔面に靴の足跡を付けられ鼻血を流して倒れているアルカがいた。
どうやら今の連撃の
それでも死んでいないのは、勇者の自己再生力とクロアから受け継いだ耐久力の賜物だろう。
「ゆ、勇者様大丈夫!?」
「顔面へこんでますよ!」
「おい、しっかりしろ勇者!」
「……ぅ、ぅぅ……?」
剣士、魔法使い、格闘家の三人が不安そうにアルカに寄り添う。
だがすぐに目を覚ました。これも自己再生力のおかげだ。
「ご、ごめんなさい」
「気にすることはない。コントロールこそ、慣れの問題だ。直ぐに慣れる」
「いやそっちではなく」
けど、ウィエルもニコニコしていて気にしていないみたいだ。
昨日のことを考えたら、仕方ないのかもしれないけど。
それにミオンとしても、内心アルカの行動一つで村が襲われなかったかもしれないと思っていたので、ちょっとスッキリした。
「それでクロア様。この後はドドレアルの所に?」
「いや、ここから動かない」
「え?」
「あっちから来たからな」
「貴様らが我が敵か?」
ゾクッ──!
突如頭上から掛けられた声。
クロアの視線の先を追って目を向けると、異形の生物がいた。
下半身はサソリで、四対の脚が軋むようにして動いている。
毒針の先からは紫色の液体が垂れ、瓦礫を溶かす。
上半身は人の姿をしているが、三対六本の腕を生やしていて、全てに剣が握られている。
四つの目がギョロりと動き、クロアたちを見下ろした。
あまりの異形さに、クロアとウィエルを除く全員が身を竦める。
異形の生物の問いに、クロアが答えた。
「ああ。俺らはお前の敵だ」
「情報によれば勇者一行は四人だったはずだが……まあ些細なこと。眼前に立ちはだかる者ならば、全てこのドドレアルの敵である」
着地と同時に地面にヒビが入り、殺気が辺りに充満する。
身の毛がよだつほどの悪魔的殺気。
脳裏に恐怖の文字より先に、逃走の文字が過ぎる。
ミオンが過去に出会った敵の中で、何よりも凶悪だった。
そう、
「ふむ。なるほど、強いな。俺も少し……本気を出す」
ゴオオォォッッッ──!!!!
クロアから迸る闘気がドドレアルの殺気を吹き飛ばし、飲み込み、圧を掛ける。
ミオンやアルカたちは、クロアの背後に佇む修羅を幻視した。
こんな化け物を目の前にしているドドレアルは、一体クロアが何にみえているのだろうか。
「貴様……もしや勇者より強いな」
「だったら?」
「相手にとって不足なし……!」
ドドレアルが高々と跳躍。
「魔剣・六徳雨刃!」
天高くから、六本の魔剣が豪雨のように降り注ぐ。
速すぎて目で追いきれない上に、人間ではありえない六本の魔剣。辛うじて二本を防げたとしても、残りの四本が相手を切り刻む。
ならどうするか……簡単である。
「フンッ!!」
──それ以上に速く拳を振るえばいい。
ドドレアルの剣撃を大きく上回る数の拳撃が放たれ、瞬く間に全ての魔剣を粉々に砕いた。
「……………………………………は……? わ……我の魔剣があああああああああああああ!?!?」
「魔剣といえど物質……俺に壊せない物はない」
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