第23話 勇者の父、瞬殺する
「ほらミオンちゃん。集中が途切れていますよ。脚に魔力を集中するんです」
「は、はいっ!」
走って移動すること三日。三人は南方へ向かうアルカを追っていた。
一応アーシュタルから馬車の提案をされたが、そんなものより走った方が速いと判断したのだ。
それにミオンの魔力コントロールの修行も兼ねている。動きながらコントロールを完璧にするのも修行のうちだ。
「ウィエル、このままだとどのくらいで南方に着く?」
「このスピード感だと、あと半日ほどでしょうか。このままだと、アルカより先に南方に着いてしまいますね」
「ん? まだアルカは着いてないのか?」
「早馬の馬車でも、十日ほどかかる距離ですから」
ウィエルの言葉に、ミオンは目を見開いた。
いくら兎人族の脚が速いとはいえ、夜の休憩以外走り続けていると体力が底を突く。
こんなに走り続けたことはないとはいえ、自分にこんなに体力があることに驚いた。
……いや、そんなはずはない。
何故だか、いつもより疲れない。慣れない魔力コントロールをしているのに、だ。
「ミオンちゃん、驚いてますね」
「あ、いえ、その……はい」
「それが魔力コントロールの恩恵です」
魔力コントロールの恩恵。
言葉の意味がわからず、首を傾げる。
「魔力を脚に集めて走ることで、筋肉や骨が強化されます。簡単に言えば、身体能力が強化されるのです」
「身体能力が強化……?」
「はい。基礎魔法の一つ、身体強化魔法です」
魔力を各部へ集めて、肉体を強化する。
それだけのもので魔法とは言い難いが、世間一般的に身体強化魔法と呼ばれているものだ。
使い始めは、通常の1.5倍。慣れたら2倍、3倍と強化することが出来る。
ミオンは顔を輝かせて、弾んだ声を出した。
「お……おぉっ! 私、魔法を使ってたんですね!」
「集中」
「は、はいっ!」
が、基礎で簡単な魔法だからこそ注意点がある。
「魔力コントロールを間違うと、下手したら四肢が爆散しますよ。緊張感を持ってください」
「ば、爆散……!?」
「あ、でも命さえあれば、どれだけバラバラでも再生出来ますから。安心してバラバラになって下さい」
(天使のようは笑顔で何とんでもないことをーーーー!?)
その日からミオンは、より一層注意して魔法を学ぶようになったという。
そうして走り続けること更に半日。三人は、とある場所に立ち止まった。
見渡す限りの廃墟、廃墟、廃墟。
もう何年も前に滅ぼされた都市だ。人の気配はない。
「ここから先が、魔王軍四天王の一人、魔剣帝ドドレアルが支配している場所だ」
ドドレアルの名前に、ミオンは生唾を飲み込んだ。
「魔剣帝ドドレアル……聞いたことあります。下半身がサソリで、六本の腕を持つ魔族。手にはそれぞれ、魔剣と呼ばれるものが握られているんですよね」
「その通りだ。どれもこれも、人間の作った最上大業物。奴が人間の都市を滅ぼし、全て奪っていったんだ」
一本でも一つの国が滅びると言われている魔剣。それを六本も所持しているのだ。
正真正銘の化け物。それが、魔剣帝ドドレアルである。
廃墟の中を歩き、周囲を探索する。
すると、ミオンの耳がぴくくっと動いた。
ウィエルも顔をしかめて、クロアに話しかける。
「あなた」
「ああ。囲まれているな」
立ち止まり、周りを見渡す。
待つこと数瞬。廃墟から、武器を携えた大小様々な魔物が姿を現した。
ゴブリン、オーク、トロール、オーガ。雑魚から上位種まで、全て武器や防具を装備している。
「ドドレアルの配下は、武器を使う武闘派と聞いていたが……これは想像以上だな」
数にして数十体。普通の軍隊でも手こずる相手だ。
「ゲヒッ……ゲヒヒッ。女、女ッ」
「犯シュッ……オカス……!」
「アヒャッヒャッ! アヒャッヒャッ!」
「…………」
下品な笑顔を向けられ、ミオンは身を竦めた。
ウィエルも慣れているとはいえ、向けられる醜悪な視線にげんなりしている。
その中にいた一体が前に出た。
クロアと遜色ない巨躯に、両腕には大剣が握られている。それに頭には角。この特徴は、オーガのものだ。
「俺は魔剣帝ドドレアル様の右腕、破壊剣のザンバ。そこの男、強者と見受けたり。是非手合わせをねがぱねぽっ」
が、口上の途中でクロアの必殺・五割パンチが頭部を打ち抜き、一瞬で肉塊と化した。
「敵を前に名乗る馬鹿がどこにいる。アホか」
もっともである。
「俺がやろう。二人は俺の後ろに」
「お願いします、あなた」
「く、クロア様、お願いします……!」
二人がクロアの後ろに下がったのを確認する。
と、クロアの身長を遥かに超える瓦礫を軽々持ち上げた。
いや、瓦礫じゃない。廃墟だ。廃墟そのものを持ち上げているのだ。
「「「「「……………………は?」」」」」
流石の魔物たちも呆然としている。
人間より力が上と自負している自分たちでも、廃墟を持ち上げようとは思わない。考えない。
クロアは鋭い視線を魔物たちに向ける。
まるで超上位種……ドラゴンに睨まれた感覚に、魔物たちは一斉に逃げ出した。
「お前ら、俺の大切な人に下卑た目を向けて……生きて帰れると思うなよ」
数分後。クロアの体は返り血で染まり、周囲にはどす黒い血の海が出来ていた。
「ふぅ……終わったぞ」
「お疲れ様です、あなた」
「文字通り一瞬でしたね。文字通り」
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