第14話 勇者の父母、ちょっと本気出す

 クロアの進撃は止まらない。

 ウィエルの指示通りに正解の道を進み、待ち受ける敵を完膚なきまでに蹂躙していく。

 そしてついに、今までにない細工が施された鋼鉄の扉に辿り着いた。

 リアルな鬼、悪魔、髑髏の顔がじっとこちらを凝視している。



「あなた」

「ああ。ここだな」



 二人の緊張感が厚みを増していく。

 ミオンは生唾を飲み飲み、恐る恐る聞いた。



「あ、あの。この先に何が……?」

「奴隷を管理している者……奴隷商の本部だ」

「ぇ……!?」

「鬼が奴隷商に雇われた山賊。悪魔が奴隷商。髑髏が奴隷を表してるんだ。これは奴隷商のマークみたいなもので、この先が奴らの本部になる」



 説明を終えたクロアが、扉に手を掛ける。

 予想どおり、この扉にも認証の魔法が掛かっているのか開かない。

 それに周りも鋼で出来ていて、さっきのように破壊することも出来ないだろう。



「硬いな……二人とも、離れていろ」

「はい。ミオンちゃん」

「は、はいっ」



 十分に離れたのを確認し、クロアは肩を回した。



「これをやるのは久々か。よし」



 拳を握ったクロア。

 闘気によるものなのか、クロアの周囲の景色が徐々に歪んでいく。

 熱気によって周囲が歪む、陽炎と同じ現象だ。

 力を溜めること数瞬。

 鋼鉄の扉目掛けて──ただ拳を突き出した。



「フンッ」



 ゴッッッズゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!!



「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?」」」」」



 爆音と共に粉々に砕ける鋼鉄の扉。

 その破片が、奥に待機していた奴隷商や雇われの山賊の体を蜂の巣にした。

 中に入ると、まだ大分人数は残ってるみたいだ。

 全員武装はしているが、目は恐怖の色で染まっている。



「クロア様、今のはなんですか? 必殺技みたいな感じでしょうか?」

「ああ。必殺・三割パンチだ」

「…………」

「因みにドラゴンを倒したのは必殺・五割パンチだな」

「…………なるほど!」



 クロアに常識は通じないと、改めて痛感した。



「さてと、ウィエル。ここは任せていいか?」

「はい、任せてください」

「それじゃあミオンちゃん。俺たちは先を急ごう。この先にミオンちゃんの仲間がいる」

「は、はいっ!」



 クロアとミオンは怯えきっている奴隷商を横目に、奥へと走っていった。



   ◆ウィエル◆



「さてと、私は私のやることをしますか」



 ウィエルは天使のような微笑みを向ける。

 恐怖の元凶がいなくなったことに安堵したのか、商人たちは下卑た笑みをウィエルに向けた。



「ひ、ひひっ。あの化け物がいなけりゃ余裕だぜ……!」

「しかも偉い美人だなぁおい」

「ひっ捕らえて犯してやる。犯し殺してやる……!」



 数にして百人は下らないだろうか。

 そんな男たちを前にして、ウィエルは困ったように頬に手を添えた。



「あらあら。困った人たちですね。私のことをか弱いとお思いなのでしょうか」



 ウィエルの目がスッと細められた……次の瞬間、商人たちの本能が何かを幻視した。

 ウィエルの背後に佇む、異形の姿。

 魔族より残忍で、悪魔よりも残酷な何か。

 それを本能的に悟り、一歩も動けなくなった。



「ふふふ。これでも昔は、私の姿を見ただけで悪人は震え上がったものですが……時の流れは残酷ですね。私のことを知らないなんて」



 ウィエルが指をくいっと曲げる。

 直後、ウィエルの足元から黒く煮えたぎったマグマのようなものが噴き出した。

 そこから、瞬く間に姿を現す無数の触手。

 意志を持った漆黒の触手が、ゆっくりと地面を這って商人へと伸びる。



「なっ、何だこれは……!?」

「ま、魔法か!? こんなの見たことないぞ!」

「た、た、助けっ……!」



 逃げ惑う商人を捕らえた触手が、黒いマグマの中に引きずり込んでいく。

 全ての商人を引きずり込むまで、ウィエルはただ、天使のような微笑みをみせるだけだった。

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