第11話 勇者、知る

   ◆アルバート王国・王都ニルヴェルト◆



 王都ニルヴェルト中心街。

 ここは多くの要人や貴族、大商人が住む街だ。

 その中に一際豪華で巨大な屋敷が鎮座している。

 ぐるりと囲う円形状の鉄柵。広々とした庭。そして見るものを圧倒する屋敷。


 勇者アルカの住む邸宅である。


 屋敷の中は豪華絢爛な装飾がされていて、床はふかふかな赤い絨毯が敷き詰められている。

 その中を露出度が極めて高いメイドたちが、あっちへ行ったりこっちへ行ったりと忙しく動き回っていた。


 そんなメイドたちを横目に、一人のメイドがある場所へ向かっている。

 クラシカルなメイド服を着て、優雅な足取りで屋敷の最奥へ。

 扉をノックし、奥にいる者へ声を掛けた。



「勇者様。よろしいでしょうか」

「……ああ、いいぞ」

「失礼いたします」



 扉を開け、中へ入る。

 薄暗く密閉された空間に、顔をしかめるほどの淫靡な匂いが充満している。

 中央のベッドには十数人の女が痙攣し、全裸で嬌声を上げていた。


 女たちを横目にベッドの縁に座る汗だくの男は、瓶に入った酒をラッパ飲みする。



「おう、セーラか」

「勇者様、お疲れのところ失礼いたします」

「別に疲れてねーよ、これくらい。まだまだ行けるぜ」

「流石でございます」



 と言いつつ、メイド──セーラは表情を変えない。

 それが面白くないアルカは、セーラに近付いてメイド服の上から巨大な乳を鷲掴みにした。

 乱暴に揉まれているのに、セーラは無表情のまま。

 人形みてーな奴だ……そう思いつつスカートをゆっくりたくし上げる。



「次はお前な。そのままケツ向けろ」

「かしこまりました。ですがその前に、一点ご報告がございます」

「そんなん後だ」

「ですが勇者様。ご家族に関わることです」



 ピタッ──。


 アルカの手が止まった。

 それどころか、今まで傲慢で意地汚い笑みを見せていた顔も固まっている。



「……家族?」

「はい」

「……俺の、か?」

「はい」



 刹那、アルカの脳裏に巨大な背中が駆け抜けた。

 見上げるほどの高身長。

 隆起した筋肉。

 全てを一撃で薙ぎ払う力。


 父、クロアである。



「な、な、なんで今父さ……親父が……!?」

「ここ数週間、勇者の父と母を名乗る二人が、国中を旅しているという情報が入ってきました。勇者様が魔物や魔獣を倒した余波を受けた村や街を周り、再興の手伝いをしているそうです」



 セーラの言葉に耳を疑った。

 今までアルカは、魔物や魔獣、そして魔王軍を撃破するために仕事をしていた。

 最終的な目標は魔王だが、それまでは自由にしていいと言われている。だからこうして贅沢三昧な生活をしているんだ。

 困惑しているアルカを他所に、セーラは話を続ける。



「現在はアプーの街へ滞在しているということです。どうしましょう。勇者様のご両親を名乗る不届き者。この私が始末してきましょうか?」

「ま、待て待て。本当にそれが親父とお袋だった場合、まず間違いなくセーラが殺される」

「これでも元最高ランク冒険者。遅れは取らないと思いますが」

「そういう次元じゃないんだよ、あの人たちは……」



 過去のことを思い出し、アルカの体は震える。



「──いや、待てよ。もし騙っているだけだとしたら、そいつらは偽物だよな……何か特徴とかはないか?」

「今受けている情報ですと、男の方は身長2メートル強。かなり筋肉質らしいです」

「ふむ……」



 身長2メートルオーバーで筋肉質。そんな男、この国でいくらでも見てきた。

 もっと具体的な情報がほしい。



「他に何かないか? 強さとか、何か……」

「眉唾ですが」

「それでいい」

「……ドラゴンをパンチ一発で屠った、という情報があります」

「親父だ」



 断言出来る。

 身長2メートル。筋肉質。それに加え、ドラゴンを一撃で仕留めることが出来る人間なんて、一人しかしらない。


 実の父、クロア。

 ということは、一緒に旅をしているのは実の母、ウィエルということになる。



「なんで親父たちは……」

「これも確かではないですが、一つ情報が」

「……言ってみろ」



 もしや自分が心配で会いに来てくれるんじゃ。

 そんな淡い期待は──






「息子を殴りに、と言っているそうで」






 ──儚くも崩れ去り、死を覚悟した。

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