第12話 勇者の父、規格外
◆アルバート王国・アプー◆
クロアたちはロゼイア邸を出ると、アプー周辺を探索していた。
クロアの気配探知。ウィエルの魔法探知。ミオンの聴覚探知で怪しい場所を探しに行く。
ガルドには屋敷の方で待機してもらっていて、安全を確保した奴隷たちをかくまってもらう手筈になっている。
しかし探索すること一時間。まだ手掛かりらしい手掛かりは見つかっていない。
山賊曰く、魔法によって認識阻害を掛けられていて、詳しい場所まではわからないらしい。
「ウィエル、どうだ?」
「魔法の気配はありますね。ですが巧妙に隠されているのか、正確な場所までは掴めていません」
「わ、私の聴覚でもこの辺で音は聞こえていますが、認識阻害の魔法で感覚が鈍くて……」
ウィエルの魔法探知は超一級品だ。長年一緒にいたから、よくわかっている。
兎人族の聴覚探知の精度も、亜人の中でもトップクラスだ。
その二つをもってしても正確な場所を掴み切れないとなると、相手にも相当魔法が得意な者がいることになる。
クロアは腕を組んで思案すると、跪いて地面に手をついた。
何かしゃべっているが、ミオンの耳でも聞き取れないほど小さい。
「クロア様、一体何を……?」
「しー。ミオンちゃん、今はちょっと静かにしましょうね」
「は、はい……?」
二人は黙ってクロアから距離を取る。
そのまま暫くクロアを待っていると、不意に立ち上がって振り向いた。
「見つけた。確かに洞窟がある」
「そうですか。それじゃあ行きましょう」
「ああ。こっちだ」
クロアが先頭を歩き、その後ろをウィエルがついていく。
ミオンも慌ててついて行くが、今の会話の意味がわからなかった。
「うぃ、ウィエル様。クロア様は何をしたのですか……?」
「んー……ミオンちゃんは、ソナーというものは知っていますか?」
「はい。コウモリ型の魔獣が使うものですよね」
簡単に言えば超音波を使い、その反射を利用して探知するものだ。
そうすることで、見えないものの場所を正確に捉えることが出来る。
だが今のクロアは、ただ地面に手をついているだけだった。
特に魔力を流しているようにも、コウモリのように超音波を発しているようにも見えない。
ならどうして……?
その疑問も、ウィエルがサラッと答えた。
「旦那は、自分の声をソナーの代わりにしたんです」
「……言っている意味がわからないんですが」
「手の平を地面につけ、声を発する。その反響を感じて、ソナーと同じことをしたんです」
説明を聞いても意味がわからない。
わかったことと言えば、クロアが底なしの規格外ということだけだった。
「認識阻害の魔法は、様々なルールを設定する必要があります。気配による探知。魔法による探知。聴覚による探知。視覚による探知。嗅覚による探知……ルールが複雑化するほど認識阻害の魔法は扱いが難しくなりますが、全てコントロールできれば厄介なことこの上ない魔法です」
「な、なるほど……?」
「旦那はそれを知っていたから、認識阻害の魔法の盲点を突いた。それが、触覚による探知です」
「あ!」
ようやく納得した。だからクロアは、地面に手をついていたのだと。
声の震動の反射で探知するなんて、普通は思い浮かばない。だからこそ盲点になり、それが隙になる。
「とんでもないですね」
「私も最初に原理を聞いたときは、同じことを思いました。この人の存在は規格外……いや、理不尽だと」
「確かに」
存在がここまで理不尽な人間は見たことがない。
というか、そもそも人間なのだろうか。それすら怪しい。
その話が聞こえていたのか、クロアはそっとため息をついた。
「二人とも、失礼なこと言ってる自覚ある?」
「あら。本当のことを言っているだけですよ」
「俺は正真正銘の人間だ。人間の身体能力の範囲で、出来ることしか出来ない」
こんなこと出来る人間がそもそもいないような。
ミオンはその言葉を飲み込んだ。
クロアの後に続くこと数分。とある場所で、クロアが立ち止まった。
周囲を見渡しても何もない。ただの森の中だ。
「あなた、ここですか?」
「ああ。ウィエル」
「はい」
ウィエルが目の前の巨木に指をつける。
直後。音と共に巨木が震え、浮かび上がるように中央に扉が現れた。
「ビンゴですね。これが入り口です」
「認識阻害魔法の上に、隠蔽魔法か。後ろめたいことをしてると認知している輩は、隠し事がうまいな」
クロアが扉に手を掛ける。
だが鍵が掛かっているのか、ぴくりとも動かない。
「許可を得ている者以外が触れると動かなくなる魔法が掛けられていますね」
「小癪な」
そっとため息をつき、僅かに力を込めると。
──メキバキバゴッッッ! 扉が周囲の木を破壊して綺麗に外れた。
「開いたぞ」
「いやいやいや! クロア様、それは開いたのではなくぶっ壊したと言うべきでは!?」
今まで黙ってみていたが、流石に限度があった。
魔法を腕力でねじ伏せる。そんなことがあっていいのだろうか。
「まあ道は開けたんだ。細かいことは気にせず、進もう」
「そうですよ。さ、ミオンちゃん」
「……ソウデスネ」
ミオンは考えることを止めた。
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