第8話 勇者の父、殲滅する
三人はまず、兎人族の仲間を助け出すためにアプーの街へ向かった。
山賊曰く、山賊グループの人数は五十人。その内の半分が、捕らえた兎人族をアプーの街へと売りに行っているらしい。
残りの半分は森の拠点にいるらしいが、今はそれより仲間の救出が最優先だ。
アプーの街は早馬で二日は掛かる。恐らく、既に街に到着している頃だろう。三人がどれだけ飛ばしても、半日はかかってしまう。
半日。下手をすると売られるか、それとももっと酷い目に合うか。
仲間の安否がわからないというのは、この上なく不安を積もらせる。
「みんな、大丈夫かな……」
「大丈夫ですよ」
走りながら漏らすミオンの何気ない呟きに、ウィエルが答えた。
「……なんでそう言えるんですか?」
「奴隷というのは品質が命です。買うのは金を持った貴族や商人ですから、下手に傷付けては値が下がります」
力仕事がメインの男。奉仕がメインの女。
二つとも体が資本だ。だから売られるまではちゃんとした食事を与えられ、徹底管理される。
その後のことは買った人間によって決まるため、安全の保証されないが。
それでも、売られるまでは絶対に身の安全は約束出来る。
「なるほど、そういうことですか……詳しいんですね」
「まあ、昔は世界各地を旅していましたから」
当時のことを思い出し、苦笑いを浮かべるウィエル。
クロアは聞き耳を立てていたが、無言で走り続けた。
「それより、今は魔力コントロールに集中しなさい」
「は、はいっ」
ウィエルにたしなめられ、ミオンは自分の内側に流れる魔力へと意識を向けた。
通常、相当なセンスがない限り、自分の中の魔力を知覚することは出来ない。
それを可能にするのがウィエルの仕事だ。
ウィエルの魔力を少しだけミオンの体に流し、ミオンの魔力と並走させる。
そうすることで、自分の魔力を感じることが出来る。
今は手助けがないと出来ないが、いずれは自分の力だけで魔力を感じることが出来るようになるだろう。
そのまま走り続けること数時間。
不意に、クロアの気配探知に何かが引っかかった。
「──人の気配だ」
「え?」
「本当ですね。十数キロ先……こちらに向かっています」
「え?」
二人の言葉に、ミオンは困惑した。
ミオンも兎人族として、気配や敵意を感じるのは得意だ。
しかしクロアとウィエルの言葉を聞くまで、人の気配は感じられなかった。
いや、今でも気配は感じられない。
(十数キロ先の気配を人間が探知出来る? いやいや、流石にそんな訳……)
二人がどれだけの実力者でも、人間であることは変わりない。
二人の勘違いだろう。そう思っていたのに。
「いたぞ」
(嘘やん)
いた。確かに。
数にして二十数人。馬や馬車に乗っていて、全員武装している。
近づけばミオンだって気配を感じられる。
それなのに、二人は超長距離から気配を感知していたのだ。
流石のミオンも、若干気落ちした。
「山賊だな。兎人族を売った帰りだろう。まずは奴らを潰す。ウィエル」
「はい」
ウィエルは空中飛び上がると、手の平をかざした。
「《ストーンウォール》」
直後、山賊の行先に高さ十数メートルの石の壁が現れ、更に四方を囲った。
突如現れた石の壁に、山賊たちは慌てふためき統制が取れなくなる。
そこに、クロアが壁をジャンプで飛び越え、山賊たちの中心に降り立った。
「だ、誰ぺごっ」
「何へきゅっ」
「へけっ」
「ぎゃぼっ!?」
クロアが軽く腕を振るうだけで山賊の四肢は吹き飛び、頭部は砕け、胴が爆散する。
「……ッ! お、お前ら、何ボーッとしてやがる! 奴を殺せ! 殺せェ!!」
「「お、オゥ!!」」
あまりの出来事に硬直していた山賊たちだったが、リーダー格の男の声にようやく体が動いた。
だがクロアの進撃は止まらない。
時間にして数分。リーダー格の男を残し、全ての山賊は肉片と化した。
「な……ぁ……ぇ……?」
さっきまで話していた仲間だった。
かなりの大金が手に入り、どう遊ぶかで盛り上がっていた。
それなのに、今この場で生き残っているのは自分一人。
腰が抜けて立てない。
そこに、死を運んできた大男が目の前に立つと、首の関節を鳴らした。
「俺の質問にだけ答えろ」
有無を言わさぬ圧のある言葉に、リーダー格の男は頷いた。
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