第7話 亜人の少女、教えを乞う
「ど、どうですか……!?」
「……え? あ、はい。僅かに魔力を感じますね。鍛えたら、少しなら魔法を使えるかもしれません」
「ほ、本当ですか!?」
ウィエルの言葉に、ミオンは顔を輝かせる。
魔法を使える者は、魔力を他者に流すことで潜在魔力を感じることが出来る。
ウィエルの言う通り、ミオンの中には僅かに潜在魔力を感じる。
ミオンは自分の手を握って開き、呆然としていた。
そんなミオンを見て、ウィエルはなんとも言えない微妙な顔をしている。
「ウィエル、大丈夫か?」
「あなた……はい、大丈夫です」
ウィエルは辛そうに微笑み、喜ぶミオンの方を見た。
「ミオンちゃん。本当に魔法を使えるようになりたいですか?」
「え? は、はいっ、なりたいです。私が強ければ、仲間を助けられたかもしれません……やれることは、全部やりたいです」
瞳の奥が妖しく揺らぐ。
その目は、目の前にいるウィエルを見ていない。更に先にある、もっと暗い何かを見据えているようだ。
この目。クロアもウィエルも過去に見たことがある。
絶望と憤怒に塗られた、復讐者の目だ。
ウィエルはそっと目を閉じ、出来るだけ優しい笑みを浮かべてミオンの頭を撫でた。
「うにゅ……? ウィエル様?」
「わかりました。あなたに魔法を教えてあげましょう」
「ほ、本当ですか!?」
「でも条件があります。この条件を守れないのなら、あなたに魔法を教えることはできません」
「う……な、なんですか?」
一度オーケーを出してから条件を提示するのはずるいと思ったが、ミオンは不満を漏らさず質問した。
「一つ。魔法は一日にしてならず。魔法を覚えるのなら、私の弟子となり付きっ切りで修業をします」
「か、覚悟の上です」
「二つ。もし魔法が使えるようになっても、一人前になるまで私の許可なく魔法を使うことは禁止します」
「う……はい」
「三つ。これが一番大切なことです」
ウィエルの目が真剣みを帯び、ミオンの目を覗き込む。
圧のある目にミオンは気圧されるも、おずおずと頷いた。
「魔法というのは、人々の役に立つものです。人々を守り、笑顔を与えるものです。……絶対に、復讐の道具にしてはいけません」
「っ……そ、それは……」
「いいですね?」
「……はい」
ミオンはしぶしぶ頷いたが、納得していないみたいだ。
それもそうだろう。仲間の仇を討つ方法があるのに、それを禁止されたのだから。
ウィエルはむすっとしたミオンの頭を撫で、諭すように声を掛けた。
「大丈夫です。あなたの仲間の仇は旦那が取ります。それに、捕まった仲間も絶対に助けます。信じてください」
「むんっ」
ウィエルの後ろでマスキュラーをしているクロア。
圧倒的な肉体美と隆起した筋肉に、ミオンは少し引いた。
でも確かに、自分のようにひ弱な兎人族よりも、クロアのように強靭な人間に頼んだ方が得策かもしれない。
自分の手でやるより、確実な方法を取った方が……。
「……わかりました。でもお願いします。私も手伝わせてください」
「そ、それは……」
「これは兎人族の問題です。全てをクロア様とウィエル様にお任せする訳にはいきません」
さっきまでの闇に染まった目でなく、闘志に燃えた真摯な目をしている。
その目を見て、クロアはウィエルの肩に手を置いた。
「まあウィエル。そこまで頑なに縛ることもないだろう」
「ですが……」
「ウィエルの弟子になるのなら、荒事に巻き込まれる可能性もある。修行に一環と考えれば、何も問題はないんじゃないか?」
「……はぁ。そうですね」
「あ、ありがとうございます!」
深々と頭を下げるミオンを見て、ウィエルはそっとため息をついた。
「もう。あなたは優しすぎです」
「俺からしたら、ウィエルの方が優しいけどな。弟子や教え子は、多少厳しくても千尋の谷に突き落とす気概でいなければ」
「それが向く人、向かない人がいるんですよ」
「むぐっ」
ウィエルのジト目に、クロアは目を逸らした。
わかっているつもりだが、クロアも若い頃はそういうやり方で育てられた。古臭いと言われようと、それ以外のやり方を知らない。
「……まあいいです。私も修行に手を抜くつもりはないので」
「当たり前だ。下手に修行をつけると、死が近付くからな」
(死が近付く……?)
クロアの言葉に、ミオンは内心首を傾げた。
その微妙な変化を感じたのか、クロアがミオンに説明する。
「下手に力を付けると、自分の力の大きさを勘違いする。自分と相手の力量を見誤る。だから修行に手を抜いてはいけないんだ」
「なるほど……わかりました。よろしくお願いします!」
再度深く頭を下げるミオン。
──そのせいで、ミオンの目に暗い炎が灯っていることに気付かなかった。
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