ChapterⅧ
『Sfz Nova』1/4
「……陽が二つ……それに、あの光の柱は……」
「ゼルフルート、何かわかる?」
私と同じように空を見上げて呟いたゼルフルートに、私は問いかける。
「天の星が二つある理由はわかりませんが、あの消えかけている光の柱がある場所はヴァルンです。恐らく渾沌色の魔剣が破壊され────」
すると、そう答えたゼルフルートの言葉を遮るようにもう一つの光の柱が天を貫いた。
そう……一度に二ヶ所を狙われ、魔石を破壊されたのだ────。
────そして同刻、暗闇の中でシュナは跪いていた。
「神骸石の破壊完了ですわ。魔王様のお手を煩わせることになり、申し訳ございません……」
本来は側近たちで全て行うつもりだった神色の魔石の破壊だったが、聖王剣の破壊のためだけにアレス、アルフ、アオスロッグの三名を使ったことで、側近はもはやシュナ一人となっていた。
(聖王剣の破壊のためにあの三人を向かわせたはいいものの、反応は消失……まさか、あのベルという少女に負けた……?)
────一瞬だが、三人の魔力が一つになっていたのを確認している。
となると、融合したのにも関わらず、聖王剣を手にしたベルに倒されたということだ。
「……魔王様、ドラゴニアの《
傍に椅子が用意してあるというのに、座ることなくずっと立ったまま『外』を眺めていた魔王にシュナはそう告げると、魔王は表情ひとつ変えずにシュナの前に立つ。
「シュナ、立て」
「は、はい」
シュナは少々困惑しながらも、ゆっくりと立ち上がる。
何か気を煩わせてしまったとひやひやしながら、沈黙する魔王を見下ろす。
「あ……あの、魔王様。そのお姿では、わたくしが見下ろしてしまいますわ。それに、少し言いづらいのですが……黒いと奴を思い出してしまって……」
「すまない。だがもう少しの辛抱だ、我慢してくれ。それよりも……」
魔王はそう言うと、妖しく光る右手をシュナの胸に当てる。
魔力が炎のように揺らめいてしまうほどの濃度を持ったそれを、シュナの内に流し込む。
「ま、魔王様……! これほどの魔力をわたくしに与えてよろしいのですか!? 神色を破壊したと言っても、まだアレが……!」
「問題ない、周囲の魔力を集束しただけだ。……それに、シュナ……お前には無茶な願い事を聞いてもらうことになる」
「……どんなことでも致しますわ。今ここで死に、わたくしの魔力を吸収すると言うのなら喜んでこの首を落としますわ。アオスロッグたちが失敗した聖王剣の破壊をわたくしに任せると言うのなら、今すぐにでも」
「……本当にありがとう。しかしシュナ、お前の体は安いものではない。聖王剣の破壊も、出来ないならそれでいい。……あぁ、アレスにアルフ、アオスロッグを囮のように使ってしまったことは、事が終わり次第謝らなければな」
「お優しいのですわね……」
「……我がお前に命じるのは『死ぬな』、それ一つだ。もうすぐここが開かれる。だから、お前には────」
* * * *
「……あ、あっちの方ってニンフェだよね!? まさか神骸石が!?」
「そ、そんな……! エストレア様たちは大丈夫ですよね!?」
「エストレアが死ねばすぐにでも新たな妖精王が誕生します。きっと神色の破壊を優先したのでしょう」
私たちが聖王剣を探している間を狙ってきたのだろう。
しかし、まさかヴァルンとニンフェ同時に狙うとは……アレスたちが『計画はあと一歩のところまで来ている』と、言っていたのはこのことだったのだ。
「くっ、早く助けに………!」
「いえ……それよりもやることがあります。神色が全て破壊された今、もう猶予はありません。着いて来てください。こんな形ではありますが、再会の時ですよ」
「再会……って、やっぱり知り合いだったんだ」
「わたしのアニムスマギアのことをどこで知ったのかと思ってましたけど、そういうことだったんですね」
「着いてきてください、遺跡の地下に彼女は居ます」
ゼルフルートはそう言うと、遺跡の入り口……の、すぐ横にある敷石に手を触れる。
敷石には魔力が送られたのか、一瞬発光すると遺跡の壁に沿うように地下へと続く階段が現れた。
「うおっ!? なんだよそれ、オレ初めて見たぞ!!」
「デスカロゥトは絶対喋るので」
「はぁ!? か、カルヴァは知ってたのか?」
「知ってますよ。デスカロゥトは確実に話してしまうと思ったので言わないでおきました」
「なっ、ぐぅ……確かに口軽いから何とも言えねぇ……」
「そういえば私たちを案内してくれてる時もいろいろ教えてくれてたね」
「は……? デスカロゥト、あとでちょっと遺跡裏に来てください」
「………は、はい」
(あ……これ言わない方が良かったか、ごめんデスカロゥト……)
そうこう話している内に、階段の終わりが見えてきた。
光が見え、何か人影が見える。
最後の段を下りると、ゼルフルートは「どうぞ」と私たちを先に進ませる。
角を曲がって、光の元へ辿り着くと懐かしい声が聞こえてきた。
「────遅かったじゃないか、待ちくたびれたよ」
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