『Klingel Schicksal』5/5
「「「─────ッッ!?」」」
指から何か飛び出すわけではない。
ただその瞬間……何か、凄まじい力で千剣は押し退けられ、私とソレは吹き飛ばされる。
これは物理的な力ではなく、私が、『首を斬られる』という運命を抹消したからだ。
「望まない運命なんて、全部消して別の運命を繋ぐ! 私が望むものになるまで消しまくる! 私もみんなもいつかは死ぬけど、絶対に今じゃないッ!」
ルフトラグナが運命を確定して一つに絞ってくれなければ、この力を使っても私は死んでいたかもしれない。
【クリンゲル・シックザール】……誰も殺したくない傲慢な私が唯一、殺すことを望んだ力。
運命は無数に存在する。
状況によってそれは常に変化し続けるため、自分が望むものにすることは普通叶わない。
誘導すれば運命はほぼ一つ、確定ならば確実に一つの運命になるが、それが本当に望んだものになるとは限らない。
しかし私のこれは、状況を誘導したり、現段階の運命を確定したりなんてものではなく、単純に望まない運命を消し去るだけだ。
もちろん、無数の運命を一個ずつ選んで消すなんて細かいことは出来ないが、ルフトラグナの力で運命が一つになるとなれば話は別だ。
狙うべき的は一つだけなのだから、私はそれを狙い撃ちするだけ。
そうして運命が消えることでリセットされ、新たな運命が動き出す。
よって、私の首がポロリするという確定された運命は失われた。
もちろん、これからの行動によっては再び別の死へ集束する可能性もあるが……その時はまた、この運命殺しを行おう。
「ルフちゃん!」
「……はい!」
─────そう、二人なら運命を乗り越えられる。
「【オラクル】!」
「【クリンゲル・シックザール】!」
ルフトラグナが本を開き、現状の運命を確定。
それが望まぬものであれば、すぐに私が抹消して別の運命へ────。
自分でも笑ってしまうほど作業ゲー、ぶっちゃけただのリセットマラソンだが……これは一度のミスも許されない。
「「「コォォォォォ~~……!!!」」」
「そんな姿になって、勝ち逃げなんてさせないから! トーングラディウス、連続演奏ッ! 【
これは一種の覚醒状態なのだろうか。
いつもより、魔力操作による発音がハッキリと聴こえる。
剣をどう揺らせば中の魔力が思い通りに動くのかわかる。
音色の魔剣を揺らし、私は巨大な炎雷を放ってその影に隠れて転移する。
炎雷が巨体を焼き払うと同時に、その背後に出現した私は聖王剣の形を変化させてソレを拘束した。
「「「オォォォォォォォ…………」」」
「そっ……りゃぁぁぁぁああああッ!!!」
ハンマー投げの要領で振り回し、天へ投げ飛ばすと再び私は転移する。
「とりあえず、お返しッ!」
鬼の巨大な腕の如く変化した聖王剣で、思いっきり殴り飛ばして撃墜させるとすぐさま真下へ転移、落ちてくる巨体へ音色の魔剣を突き出して【
「すっげぇな……アイツ……。ついさっきのことだぞ、オレと出会って逃げ出してたガキだったのに……」
「さすがプロテアスに選ばれただけあります」
────光線が体を穿ち、その衝撃で一瞬再び浮かんだ巨体は地面に倒れる。
……が、ソレはすぐに起き上がり、千の刃に分裂させた千剣を放ってくる。
「【オラクル】! ……千剣を避けている間に接近されて精霊剣で左腕を斬られますッ!」
「了解! 【クリンゲル・シックザール】ッ!」
私が運命殺しを行うことで、ルフトラグナの本に浮かび上がった文字は消え、別の運命が浮上する。
「……じゃあもうアニムスマギア使うの疲れてきたし、終わりにしようか」
「「「コォォォォォォォォォ……ッ!!」」」
精霊剣を投擲して、獣のように四足歩行で迫ってくるソレに向けて私は終わりを告げる。
投げられた剣は誰にも命中することなく地面に突き刺さり、巨体が迫る中、私は冷静に、慎重に聖王剣を構える。
左手の魔剣を解除し、右手……聖王剣に重なるように再び《音色の魔剣・トーングラディウス》を作り出し、その透明な刃へ螺旋状に聖王剣を纏わせた。
「時結魔術! ホーロフロスティーギッ!」
剣の中で七音を奏でる。
ベルの音が鳴り響き、瞬間────私以外の時が停止する。
三つの頭蓋骨は目と鼻の先にあり、両腕が私を掴もうとしていた。
目の奥にはやはり闇があり、表情のないはずの頭蓋骨からは、どこか悲しげな雰囲気を感じる。
「……あなたたちがどうしてこんなことをするのか、後で聞かせてもらうからね。だから、今はッ!」
剣を構えて、剣先でゆっくりと円を描く。
魂がフツフツと燃え滾るのを感じながら、私はアオスロッグ、アレス、アルフが融合したその存在を突く。
「【
チョンと剣先を、確実に、正確に当てた瞬間、時間停止は解除される。
刹那────術式が発動し、凄まじい衝撃波が私もろとも吹き飛ばした。
「ベル! 平気ですか!? 【
「いってて……大丈夫、私もあいつも……」
ルフトラグナに治癒されて、私と同じように吹き飛んだ巨体を眺める。
私の必殺魔術は必殺ほどの威力が出せないから、ちょうどいいはずだ。
……ピクリとも動かないけど大丈夫だ……多分、きっと。
「ナゼだ……」
「どうしテ……」
「殺さナい……」
「……そりゃ、殺しちゃったら私の望む運命にはならないからね」
「「「なンだと……?」」」
「言っておくけど、魔王も殺すつもりないからね。そんなことしたってどうせ後から魔王幹部の生き残りが襲ってきたりとか、魔王の支配下だった魔物の軍勢が暴れだしたり~とか……絶対あるよね。そんなことしたら、そっち側の人たちにとっては私が魔王ってことでしょ? 毎日命狙われるのは絶対嫌だからね」
「……恨まナイのか?」
「オレたちハお前たち人間を殺シテきた」
「僕らはイツも殺してキた」
「罪は背負ってもらう。ルフちゃんの腕も返してもらって、いろいろが終わって……落ち着いてきたら、みんなでご飯でも食べようよ」
「ワからない」
「それだケで許さレるのか?」
「有リ得ない……」
確かに、魔王たちがしてきたことはそう簡単に拭えぬものではないだろう。
でも、きっといつかは実現出来るはずだ。
私がその運命を望んでいるのだから────。
「「「…………我々はただ、コノ世界が嫌いだ。美しク見える世界でも、闇は必ず存在する。平気で我が子を捨てる親ナンテ珍しくない。当然だ……神は既に、この世界を見放してイルのだカら」」」
「世界を見放す……?」
「「「神はもう世界への干渉をヤメた。だが、絶対的な神が、失敗作を放置するト思うか? ……答えは否。この世界は、じきに終焉を迎える。これは運命などではナい。神が定めた宿命だ。今起こっテいること、過去に起こったコト、そのどれもコレもが神の世界終焉シナリオだ。お前の、その力も……もしかスるとその一部なのかモしれないぞ」」」
「そうかもしれない。でも……私は誰に決められたわけでもなく、私の意思で運命を変えたつもりだよ。それに神様も、さすがに魔王と仲良くしようとする人間がいるなんてこと予想してないでしょ? きっと私はイレギュラーなんだ。だから見ていてよ。失敗して私が死んだら、体も乗っ取ればいい」
といっても、内心は正直震えまくっている。
スケールが大きい、デカすぎ、忘れてたけど私はただの女子高生で、人間だ。
何か出来るとすれば、仲間を作ることだ。
そう……確か昔からそうだった。
独りでいるのが怖くて、どんな人にも笑顔で、好印象に持たれるように努力して……親が影で「まだ小さいのに、何故あの子は友達に対して作り笑いをしているの?」と言っていた時はショックだった。
作り笑い? 何を言っているんだ。
心の底から笑顔だよ……だってそうしないと、みんな私から離れていくんだから。
……なんて、昔はそんなことを思っていた。
今は今で、生きたいからという理由があるが……人として当然の心理ではないか。
誰しも生きたいと思っているはずだ。
どんなにツラいことがあって、死にたいと心の底から思っても、出来ることなら生きていきたいはずだ。
私が気持ちよく生きるために、生きやすい世界を創っていくのだ。
「「「……全て、救うのか」」」
「やるだけやってみるよ」
「「「…………なら、君に賭けよう」」」
そう呟いた途端、精霊剣も千剣も弾けて消え、その体も消え始めていた。
「ちょ、ちょっと!? なに勝手に消えようとして……!」
「「「ベル……といったナ。この体はもはや戻らない。だがお前のオかげで希望が持てた……我々はこれより眠りにツく。目覚めた時……何も変わっていナケればまた殺しに行く」」」
「……なら、全部終わったら目覚ましに世界中に響く音を奏でてあげる。耳を澄ませて待ってなよ」
「「「……フン。精々頑張ることダな。既に魔王様の計画は、あと一歩のところまで来ているノだから─────」」」
それだけ言い残すと、アレスたちは光の粒子となって消えていく。
(爆睡してるがいいさ、すぐ叩き起してやるから)
私は天に舞い上がる光を見上げて、強気にそう思う。
しかし、彼らが言っていたことは本当のようで、空にはいつの間にか太陽が二つあった。
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