『Klingel Schicksal』3/5
────ゼルフルートが落下位置を調整してくれたのか、岩の上に落ちなくてよかった。
でも、起き上がった私の視界に入ってきたのは絶望的状況だ。
「ゼルフルート! わ、私を庇ったの!?」
「……っ、誘導しても……避ける運命がなかったので……仕方なく私にだけ当たるように誘導しました……。これ、痛いですね……」
雷撃のダメージは大きく、ゼルフルートは立てそうにない。
さらに、血だらけのデスカロゥトとカルヴァ、そして顔が涙でぐしゃぐしゃになったルフトラグナが見える。
「やぁやぁやぁ! コンチワ! 君がベルだね? 待ってたよ。その聖剣、壊したいからさ。あとついでに君も殺したいからさ。ちょっとそのまま動かないでもらえるかな?」
「……ッ! 【
言葉の代わりに、攻撃で答える。
簡単に避けられてしまったが、雷鳴の音を利用しさらにもう一発落雷をアルフへ落とす。
「うおっと、危ねぇ!」
「すごいすごい! 怒った怒った! アハハ!」
「……アオスロッグ。あまり挑発するな。あれでも、聖剣に選ばれたんだ。何をしてくるかわからないぞ」
「あー? んなこと関係ないでしょ? やるなら本気で殺し合いたいだろ」
「…………」
アオスロッグ……不気味な少年だ。
私がまばたきをした瞬間に目の前に現れ、真っ暗闇が見つめてくる。
「僕はアオスロッグ。その転がってる人造人間たちとほとんど同じものだよ。魔王様に造られたんだ」
「うっ、う、ごけ……な……」
近付かれると、何故か体が全く動かなくなる。
布からぬるりと右手が伸ばされ、手袋越しに私の頬に触れてくる。
「あぁ……いいなぁ、いいなぁ……。この場でさ、ちゃんと人間なのは君だけだよね。偽物じゃないよね。柔らかいなぁ。いいなぁ……その体くれないかなぁ?」
「そ、んな……変態に、渡すわけ……ない……でしょ……!」
「えーそんなこと言わないでさー、僕に呑まれてよ」
「……ッ!? あ、あなた……体は……!」
アオスロッグの布がふわりと、捲り上がる。
しかし中にあったのは体でもなんでもない、闇だ。
手袋とブーツと布以外、闇しかなかった。
「えへ、えへへへへへ……アハハハハ……! 体貰うね! 君の体を貰ったら何をしようかなぁ! あ、まずは君の姿でそこの天使を殺そう! その後君が関わってきた人全員ぶっ殺そう! そうだ、それがいい! きっと楽しいよ! なァ、君もそう思うだろ?」
「思うかそんなこと! 【
逃げなきゃ本当にヤバい。
本能的にそう感じ、私はアニムスマギアで音を奏でてルフトラグナの側へ転移する。
「ルフちゃん大丈夫!?」
「は、はい。ですが……みんなが……」
ゼルフルートはまだ間に合う。
だがデスカロゥトとカルヴァは傷が深い。
(ルフちゃんが治癒……している間に、私が一人で三人と相手するのか)
状況は最悪……でも、なんとかしなきゃ聖王剣を手にした意味がない。
私は指輪を剣に変化させ、銀色の刃を三人に向けて構える。
黒騎士二人でも勝てるかわからないのに、アオスロッグという魔造生物だ。
いや……生物なのかすらわからない。
「私が相手してる間に、ゼルフルートたちの傷を癒して」
「え、ベル!?」
「お願いね! ……行くぞ黒騎士ッ!」
ルフトラグナの近くにいたら、ルフトラグナをあえて狙ってくるだろう。
ここはまず、ルフトラグナたちとの距離を離し、まずはあのアオスロッグか、アレスのどちらかを、一人だけでも行動不能にする。
「一体何が目的なの!」
精霊剣を持っていない方……つまり黒騎士アレスに聖王剣を振るい、私は問いかける。
しかしアレスは無言で、私の剣を弾き返した。
さらにその隙を狙われ、アルフが攻撃を仕掛けてくる。
「────おっと、また透明のやつか」
左手に《音色の魔剣・トーングラディウス》を、右手に《聖王剣・プロテアス》を持ち、アルフを剣を受けるが……二刀流なんてやったことがない。
黒騎士二人は剣術に長けているし、アオスロッグは自在に操る二本の槍がある。
「どうせお前は俺たちを殺そうとはしないんだろう」
「……っ! ほ、本当にそう思う?!」
「あぁ。殺意が全くないからな……【
こっちが殺す気がないとわかってしまえば、相手はやりたい放題だ。
地面から鎖が生えてきて、私は両手を拘束されると、さらに足が氷に囚われる。
「【
周囲の土が盛り上がり、私を埋めていく。
黒い鎖の力なのか、《音色の魔剣・トーングラディウス》の維持が出来なくなる。
「おー、生き埋めなんてやることえげつねぇ!」
「アオスロッグ、食うなら早くしろ」
「えぇぇぇ~、こんな土まみれのを~? ……まぁいいや、これくらいは我慢してあげるよ」
微かに三人の声が聞こえる。
……微かに、アオスロッグが近寄ってくるのがわかる。
両腕、足は拘束され、体は全身、土に埋まっていて動けない。
でも一回だけなら、発動出来る。
黒騎士アレスの場所は記憶しているから、移動していないことを祈る。
「それじゃあいただき────」
そんな声が聞こえた瞬間、私はもう一度、一瞬だけ剣を生成する。
それは土を破り、地面に落ちると中の魔力同士が弾き合い、その衝撃で独りでにアレスの方へ向かう。
剣から箱へ変化させ、アレスを中に……防音空間に閉じ込める。
(最後の足掻きか……? 俺を透明の壁で囲った程度で────)
これはアニムスマギアとヘルツマギアを組み合わせた、私のオリジナルだ。
黒騎士は強い……実力で勝つことは絶対に出来ないだろう。
だから相手を利用し、勝つ。
あの鎧は少し動いただけで金属が擦れる音がする。
閉じ込められて何とも思わなくても、壊そうとしたりすれば必ず動かなくてはならない。
そう……必ず、音を発するのだ。
────アレスが私の作った防音空間を破壊することはなかった。
予定通り効果が発動し、自動的に解除される。
「う……ガッ……!」
「あ、アレス!?」
アレスが倒れ、咄嗟にアルフが駆け寄る。
「き、気絶……しているだと?」
狙い通り、気絶してくれた。
そうなればアレスの魔法はすぐにでも解除され、私は晴れて自由の身となる。
土壁が崩れ、至近距離に立っているアオスロッグを見ると私は笑顔を見せてやった。
「残念でした。────ハッ!」
その右手拳による正拳突きは、アオスロッグに触れる瞬間、既に指輪へ変化させていた聖王剣が小さな刃となり、突き刺さる。
実体があるのか不安だったがしっかり効いているようで、悶えてその場に倒れ込んだ。
「て、てめぇ一体何をした!?」
「教えるわけないでしょ。【
油断したアルフを凍り付かせ、私は一安心する。
オリジナルのマギア……【Tone Over Explosion】。
防音空間を作り、その中で発生した音を徐々に増幅させるものだ。
アレスは爆発的に増幅した金属音により狙い通り気絶、もしかしたら鼓膜も破ってしまったかもしれない。
「さて。ルフちゃん……ゼルフルート……!」
ゼルフルート、カルヴァ、デスカロゥトが心配だ。
すぐに傷の手当てを……そう思った時、アオスロッグの笑い声が周囲に響く。
その笑いが何を意味しているのかはわからなかった。
……でもとても嫌な予感がする。
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