『Klingel Schicksal』2/5
光を纏い、わたしは空へ飛翔する。
アレスの武器は片手直剣……名は確か、《千剣・ターゼント》だ。
その剣を見ると腕を斬られた時の痛みを思い出してしまう。
よく見るとギザギザした刃は、包丁や通常の剣とは比べ物にならないほど痛い。
「あの時とは違う……か」
アレスは静かに口を開くと、右手の千剣を下ろして、代わりに左手を天へ向ける。
「だが、いつお前が俺を追い越したと思っている」
その言葉は、わたしの耳元から聞こえた。
振り向いた瞬間に腹を蹴られ、わたしは地上に落下して地面に体を強く打ち付ける。
転がり、岩に背をぶつけてようやく呼吸が出来る。
何の気配もなく転移出来るほど、魔法のレベルがわたしとは違う。
……別格だ。
「いた……い……」
「もうお前は用済みなんだ。お前の体の一部さえ手に入れれば、あとは
────どうせ、あの魔術師もお前の右腕にしか興味はない。皆、お前自身のことなど案じていない。お前の右腕や、力、それにしか興味がない。だから安心して天へ帰れ」
わたしは髪を掴まれ、体を持ち上げられる。
この状況は右腕を斬られた時と同じだ。
「いや……嫌っっ!!」
また血が溢れる。
また自分の肉と骨を見る。
またあの痛みが襲ってくる。
またわたしは、恐怖を刻みつけられる。
「恨むなら、お前が降りたこの星を恨むんだな」
すると、アレスの持つ千剣は形を崩し、無数の刃となって浮遊する。
千剣────千の刃へ分裂する剣だ。
「わたし……は……」
何も出来ない。
右腕が無くても、命があるならいいと思った。
あの時……ヘルツさんが助けてくれた時、どうしてそこまでしてわたしを助けてくれるのかわからなかった。
いつもダメだダメだと言われ続け、ようやく白色魔法を使えるようになっても、まだだと言われた。
呆れられ、何度も叱られて────。
……でも、いつもそうしてダメだと叱ったあとは、必ず微笑んで頭を撫でてくれた。
『出来るようになるまで付き合ってやる』と、言ってくれた。
上手くいかず、思わず泣き出した時は苦笑しながら慰めてくれた。
初めて作った変な色をしたスープを嫌な顔ひとつせず口に運び、吹き出した時も「不味すぎて笑えるから食ってみろ」と言ってわたしの口に押し込んできた。
……あれはあとで一緒に吐き出したけど。
初めは、ヘルツさんもわたしの右腕が目的だったのかもしれない。
今も、そうなのかもしれない。
でも、それだけじゃなかった。
ヘルツさんは、ちゃんとわたしを助けてくれていた。
「────違います! みんなは、ちゃんとわたしを見てくれています! わたしが居なくなったら、きっと心配してくれます! ……わたしがあなたたちとは違う存在だとしても、わたしは……一緒に生きていきたいと、本気で思っています!」
「……神の使いが人と馴れ合うだと? ────ふざけるなッ! 神、天使! 普段は顔も出さない存在に、何度苦しめられてきたと思っているんだッ! 神なんてもの、この世界の害でしかないんだッ!」
アレスは突然感情が爆発し、わたしに向けて声を荒らげる。
感情的になったアレスはもはや躊躇うことなく千剣の力を発揮し、分裂した刃が迫ってくる。
「【
「ッ! 【
千剣の刃がわたしの皮膚に触れた瞬間、カルヴァがこちらの状況に気付いてアレスを黒い鎖で拘束する。
しかしその直後、アルフの傍に転移されて逃げられた。
「「ハァッッ!!!」」
「リヒト────ッ!?」
アルフの元に転移したアレスは、すぐにアルフの攻撃に合わせて二人同時にカルヴァを斬る。
一瞬で対処され、防御が間に合わなかったカルヴァは二つの深手を負い、倒れてしまう。
なんという対応力……同じ鎧に、同じ思考回路でも持っているのか。
「カルヴァ! ……テメェェェッッ!!!」
「ちょっとちょっと! 僕のこと忘れないでよね!」
「うるせ……グッ!?」
白布の少年と交戦していたデスカロゥトは、カルヴァの傷を見るなり怒り、腕を龍化させて黒騎士二人に襲いかかる……が、しかし、後ろから二本の槍が襲いかかり、そのまま背中と地面に突き刺さった。
「くっ、そ……! これ抜けよッ! おいッ!」
「えー? ヤダよ。だって君、傷付いても全然悲鳴上げないもん。つまんないじゃん?」
白布の少年はそう言うと、うつ伏せに倒れるデスカロゥトに馬乗りになって突き刺さった槍を左右に揺らす。
「────ッッッ!!?」
「お、頑張るねー! ほらほら、もっと抉ってあげるからさ! あぁ君の血って凄く黒くて綺麗だねぇ……死んだら血を全部抜いて遺跡の中にいるもう一人に飲ませよーっと!」
布を被ったまま血で溢れるデスカロゥトの背に顔を押し付け、布越しに血を啜っている。
「うっ……ぐッッ……」
「……あっ☆ アレス、来るよー!」
急にそんなことを言うと、デスカロゥトから槍を抜いて立ち上がる。
「あぁ、【
「ッ! ベル!!」
そうして、遺跡の中央から飛び出してきたベルともう一人に、アレスの雷撃が命中した。
わたしは雷鳴で思わず目を瞑り、耳を塞ぐ。
轟いた雷鳴が遠くで響いているのを感じながら、わたしは恐る恐る目を開いた。
落下し、地面に倒れる二人だが、ベルの方は傷がなかった。
しかし代わりに、もう一人が背中に大きな火傷を負ってしまっていた────。
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