ChapterⅦ

『Klingel Schicksal』1/5

「プロテアスはカラーマギアと同じ要領で扱ってください。あなたの想像通りの形に変化しますので」


「大きさも形も、重さまでホントに自由なんだね」



 指輪の状態から、短剣、そして大剣へ変化させ、槍や謎のオブジェにもしてみる。

 面白いくらい、いろんなものに変えられる。



「それ、触れると勝手に形が変わるので手入れが大変なんです。やる時は無心でやった方が楽ですよ」


「む、無心か……難しそうだなぁ」


「あと、あなたのアニムスマギア────っ、いえ、すみません。話している暇はないです」


「へ?」



 ゼルフルートは遺跡の入り口がある方向を警戒し始める。


 ……そうだ、ゼルフルートとの戦闘で忘れていた。

 聖域内に侵入した三つの反応……それが近いのだろう。



「どうやら先刻からデスカロゥトたちが交戦中です」


「そんなっ! 早く助けに行かなきゃ!」


「言われずとも。飛翔するので掴まってください」



 私はすぐさまゼルフルートの体にしがみつく。

 人造人間なんて言っていたけど、ちゃんと人間の暖かさがあった。


 ────なんて思ってる暇はなかった。

 いつから交戦していたのかはわからないが、ルフトラグナもかなり危険な状態のはずだ。



「……私たちを覆うようにあの透明な壁を生成出来ますか? 出来れば防音状態で。敵に気付かれたくないので」


「なるほど、了解。【音色トーン】!」



 言われるがまま、私は自分たちが中に入るよう防音空間を生成する。



「では、【緑色魔法ヴィントス】」



 風に乗って、私たちは遺跡の上へ昇る。

 外へ出ると、一層光が眩しく感じて目が眩む。


 ────その時、雷撃が私たちを襲った。



 * * * *



 ベルが遺跡に入ってすぐ、わたしはデスカロゥトの遊び相手になった。



「ほ~ら~! もっと高く飛んでくれよ~!」


「うぐっ、な、なんでこんなに重いんですかぁ!」


「おいおい、女の子に対してそれはないんじゃねーか? オレだってこんなんだけど傷付くからな!」


「あっ、す、すみませ……ってやっぱりこれは重いですよ~!」


「えー、これでも龍化してる時の重さの百分の一なんだぜ?」


「あ、あのドラゴンですか? あれってどれくらいの重さ……」


「あー……五十トン?」



 百で割ったところで全然重かった。



「それを抱えて、しかも左腕のみで五メートルも飛行したのは優秀ですよ。魔法の補助の仕方がとても上手です」


「それってなんだよそれって! しょうがないだろ、オレはいろいろくっ付いてんだから! ちっこくて軽いからって……」


「主様が作り上げた私は完璧です。この姿こそ、主様が望んだ完成系なのです」


「それあいつがロリコンってことにならないか?」


「…………主様の趣味に口出しはしません」


「お、おぅ。……つかオレもこの姿はちっこいし人のこと言えねぇか」



 デスカロゥトとカルヴァ……二人のやり取りを見ていると、不安も消えていく。

 わたしは、デスカロゥトを持ち上げて疲れた左腕を【治癒魔法ハイレント】で癒しながらそう思った。



「理解出来ないところがあるとすれば、何故私に合わないこんな大きな帽子を被せて────デスカロゥト、敵です」



 カルヴァは大きな帽子をクイッと上げて、森の先、草原の方を睨む。



「て、敵って……?」


「……三人組です。二人は全く同じ装飾の黒い鎧を来た男。もう一人は……大きな白い布を上から被っていますね。アレは人ではないでしょう」


「魔王側近って奴だろ? めんどくさいってゼルフルートが文句言ってたぜ」


「でしょうね。それでは、私たちで対処しますか。天使さんは戦えますか?」


「は、はい!」


「よかった。では、片方の黒騎士をお願いします。デスカロゥトは正体不明の白布を。充分に気を付けてください」


「わーってるよ。だがまぁ、久々の大暴れだ! 殺しちまうかもな!」


「……だと、いいのですが」



 カルヴァはずっと草原の方を見て呟く。

 それほど、白い布を被った者が危険なのだろう。


 そう、思った瞬間だった。

 デスカロゥトが吹き飛び、呆然としていたわたしの横を通り抜けて遺跡に体を打ち付ける。



「デスカロゥトっ!」


「────ッッ、だい……じょうぶだッ。それより気を付けろ……! 来るぞ!」



 壁に埋まったデスカロゥトはすぐに抜け出し、わたしとカルヴァの前に立って拳を構える。



「─────心臓を穿ったつもりだったが、なるほど……生物の域を脱しているのか」


「……ひっ」



 目の前に、それは転移して現れる。


 真っ黒な鎧……顔は見えず、皮膚すら見えず、動くたびにガシャガシャと不快な音が鳴る。

 忘れられるはずがない……。

 この黒い鎧、そしてこの声は……わたしの右腕を斬った者。



「アレス…………」



 アレス、さらにアルフも居る。

 そしてその背後にはカルヴァが言っていた白い布を被った者が、遺跡をぼんやりと眺めていた。



「ねえねえ、遺跡ごとぶっ壊せば終わりじゃないの?」


「出来ていればとっくにしている。強力な結界だ……魔王様か、シュナ様でなければ破壊は出来ないだろう」


「でもどーせあいつが持ってきてくれるだろ? ほら、確かベルとか言ったな。あいつごと壊しちまおうぜ!」


「おお! それはいい考えだね! ベルちゃんかぁ……どんな顔を見せてくれるんだろうなぁ」



 なんだ、この気持ちの悪い空気は。

 白い布は目の部分に穴が空いているが、こちらから見ても真っ暗闇しか見ることが出来ない。

 布からかろうじて見える体は手と足だけで、それぞれに手袋、ブーツを着けている。



「生物の域を脱してるだって? 笑わせんなよ。お前らもいい感じにバケモンじゃねーか」


「わぁ何この子~! ぶっ殺したいんだけど!」


「殺るかクソガキ?」


「うん、殺し合おうよクソガキ」



 デスカロゥトの挑発に乗った白布の少年は、空中に魔法の槍を出現させて戦闘態勢になる。



「クヘハハハハ!! なぁアレス! お前どっちと戦うよ!」


「お前はあの魔法使いを殺れ。俺の魔法が妨害される」


「あいよーっと。んじゃあガキンチョ、弱いものいじめになっちまうけど勘弁な。オレそういうの大好きだからよ!」


「弱い? それは戦って、私を殺した後に言ってください」



 ……とすると、わたしの相手は…………。



「久しいな天使」


「…………っ」



 声の圧に、わたしは思わず一歩下がる。

 威圧感で押し潰されそうだし、恐怖で今にも逃げ出したい。



(ベル……たすけ……)



 ────それじゃあ、私がルフちゃんを守るよ。

 あの時のベルの言葉が脳裏に過ぎる。



(もしわたしが死んだら、ベルはきっと自分を責める……)



 ベルが願っているのは、全員の生存。

 殺し合いのない世界だ。



「……わたしはまだあなたが怖いです」


「…………」


「でも、もうあの時とは違います! わたしにはみんなが居ます! 怖いけど……頑張れます! だから────!」



 右腕を返してもらって、ちゃんと謝ってもらう。

 それで、それから友達になろう。

 きっとなれるはずだ。



「【白色魔法〔効果付与〕リヒトア・エフェクト】!」

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