『Break Time』3/4
────転移した先には、砂色の石が積まれて作られた家や店が建ち並んでいた。
緑は少ないが、乾燥に強い植物が所々に生えていて、右奥には広大な畑も見える。
唯一、水分を多く含んだ土地は全て畑にして、食料を確保しているのだ。
「お、おぉう……」
そして私は、想像とはかけ離れた屈強な体の獣人たちを前に変な声を漏らす。
どこを見てもモフはなく、筋肉だ。
ライオンっぽいのとかいろいろ居るけど、男性はみんなゴツい。
女性の方は毛並みが綺麗だが、やはりデカい。
男性ほどではないけど、それでも大岩を軽々と持ち上げられそうなほどだ。
「る、ルフちゃんって……確かヘルツは鳥型の獣人とほとんど変わらないって言ってたけど……まさかこんな大きくならないよね!?」
「えぇっと……それは成長してみないとなんとも……」
「そのままの姿で居てね!!」
「ぜ、善処します」
……さて、それはそれとして。
ベスティーの至る所が修理中で、壊された建物などを直している最中だった。
メアーゼと同じく、地中に埋まる漠餓石を破壊された影響は何も無いらしい。
そんなことを考えているうちに、私たちは武器屋の前まで来た。
「んー……ルフちゃんは片手だから取り出しやすくて、軽めのが使いやすいよね。あんまり重いと歩くの大変だし……短剣のほうがいいかな」
「ベルはどうします? 魔力が無くなった時のために、何かしら持っていた方が安全ですけど」
「あぁそうだよね、私も短剣持っとくか」
そうして、私とルフトラグナはお揃いの鞘で短剣を購入する。
ルフトラグナは軽い材質の短剣だが、私のは少しだけ重めだ。
鞘はそこまで目立つものではないが、シックな青い装飾が気に入ったのでそれを選んだ。
ルフトラグナは太ももに着けるレッグポーチを新しく買い、そこに短剣をしまうことでスカートに上手いこと隠す。
私はそのまま腰の後ろに取り付ける。
マントで隠れているので、そう簡単には武器を持っていることは見破れないだろう。
「わぁお! こんなところでキミたちのようなかわいい子と出会えるなんて! 良かったらお茶でも……」
すると背後からそんな声が聞こえる。
これは俗に言うナンパというやつか。海に行った時は声かけられなかったのに。
いや、かけて欲しいわけじゃないけども。
「すみません、急いでいるので遠慮し……あれ?」
私は振り向いて、ルフトラグナを守るためにも誘いを断ろうとするが、目の前には誰も居ない。
「ベル、下です下」
「下……? って、は、ハムスター!?」
ルフトラグナに言われるがまま下を向くと、そこにはサボテンの花を片手に求愛する小さなハムスターが一匹いた。
他の獣人とは違う……人の形をしていない完全なハムスターだ。
すると、武器屋の店員がハムスターの存在に気付いてハッと表情を変える。
「ロボロフ王! 出来上がったクローはお届けに上がると申しましたのに!」
「王っ!?」
またエストレアやセイルナの時と同じような反応をしてしまった自分に恥ずかしさを覚えながら、そのハムスターをじっと観察する。
王……? いやしかし、セイルナは小さいとか、ルーフェは愛くるしいとか言っていた。まさか本当に?
「いやいや、ボクの武器だ。自分で来て、手にしたいんだよ。あ、別に急用じゃないから安心してね! さて……やぁ初めまして! キミたちのことは聞いているよ! ベルくんにルフトラグナくん。ボクはロボロフ・ベスティー。小さな小さなハムスターだけど、この国の獣王さ! ようこそベスティーへ!」
「あ、は、ハイ!?」
「嬉しいなぁ! 握手握手!」
私の指をギュッと握ってくるそのハムスター……ロボロフは、てこてこと歩いてルフトラグナにも握手する。
「今日はどうしたのかな。武器を買いに来たのかな?」
「あ、そ、そうです。ちょっと遠出するので、いろいろと準備を……」
「なるほどぉ、メアーゼの被害を最小限に抑えた英雄にボクも何かしてあげたいけど……まだ国の復興が終わっていなくてね。豪華にもてなせなくてごめんよ」
「いえいえ、お気持ちだけでもとても嬉しいです!」
「そうだ。旅に出るなら保存食がいるだろう? ここは乾燥地帯だからね。長期間保存の効く食料は沢山あるよ! 金銭は気にせず、好きなの持っていってよ!」
「あ、ありがとうございます! 助かります!」
「このくらいしか出来なくてごめんね。また今度来てくれたら、それなりにお出迎えするよ! 楽しみにしていてくれたまえ!」
「は、はい! 楽しみにしてます!」
陽気な王に保存食を貰い、私たちはベスティーを後にする。
「────ジャーキーに、これはパンかな? カッチカチ。あとドライフルーツとかいろいろ……これなら食料が無い時でも安心だね」
「はい! どの国の王様も、とても優しい方ですね」
「そうだね。また今度、ヴァルンにも行ってみようよ! それにメアーゼとベスティーも全部見て回ってないよね」
「楽しみが増えますね」
「うん。……絶対、聖剣を取って戻ってこよう」
「はい。二人で無事に、戻ってきましょう」
準備は終え、覚悟も決めた。
装備も整え、やることがないくらい完璧だ。
出発は明後日、日の出と共にエストレアが転移してくれる。
それまでは、体を休めて万全の体制で臨もう。
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