ChapterⅣ
『Tone of BELL』1/3
────ベル、ルフトラグナ、ルーフェを南湖国に転移させてから数分。
まるでそれを待っていたかのように、事前に張っていた結界が破壊される。
一撃、それも何かで斬られたかのような衝撃……この力はアニムスマギアかしら……。
「……考えても仕方ないわ。さぁ、戦闘開始よ。クラール!」
「は~い♪ それじゃあみんな、突撃です~!」
ニンフェ陣営の総数は約二百名。
結界が突破され、魔物がなだれ込んでくるが、これは想定内だ。
敵の数は大体五百……その中でも、一番強い力がゆっくりと迫ってくる。
今すぐにでもリーダーを討ち取りに行きたいけど、私はまだ出れない。
「……今度こそ、信じるのよエストレア。みんな強い子たちだもの……!」
私の力は強すぎる。
それこそ、この国全てを呑み込んでしまうほどに。
だからみんなを巻き込んでしまう。
今は、クラールたちが魔物を食い止め、敵のリーダーを国から離れた場所に誘導させるのを待つ。
「ベルたちは、上手くやっているかしら……」
不安が積もる。
親友にも一向に連絡がつかない。
不安で押しつぶされてしまいそうだ……。
* * * *
「行け行けぇぇ!! 魔物はこの辺によくいるものばかりだ! いつも通り対処しろぉぉぉ!!」
ニンフェへ侵入してくる魔物はどれも、付近によく出没するものばかり。
数が多いだけで、その個体は脅威ではない。
虫型、植物型、鳥型、竜種もちらほら見える。
そんな中に、人が一人、立っていた。
「さぁ、憎き妖精を殺しなさい。存分に、殺し合い、星の糧となりなさい。恨みは星へ、届けなさい」
「まぁ、随分と物騒なことを仰るのですね~」
「……ようやくこの手で、壊せるのですわ。この国を。あの王を。────初めましてですわ。ニンフェギルド団長、クラール・ハイ。わたくしの名はシュナ。どうかお見知りおきを」
「まっくろくろですね~」
黒い長手袋に、黒いドレス。
漆黒の髪と、同じく漆黒の瞳は見つめ続けると呑まれそうになる。
────シュナ……その名は聞いたことがある。
「最近ですね~、大地が突如、巨大な剣で斬られたかのような傷をつけられる現象が多々報告されていまして~。目撃者さんの証言とあなたの容姿は一致するのですが~……同じ方ですかね~?」
「えぇ、そうですわ。わたくし斬ることだけが取り柄ですの。あなた方のお仲間も……綺麗に斬れていたでしょう?」
「…………あ~。やっぱりあなたがそうなんですね~」
────許せない。
「じゃあもう、死ぬしかないですね」
わたしは自分の大剣を担ぐと、助走をつけてシュナに接近する。
みんなを殺したこの女を、同じように斬ってやるために。
「あらあら、化けの皮が剥がれましたね。それが本当のあなたなのです?」
「────ハァッ!! 」
言葉を無視して、わたしは大剣を斜めに振り下ろす。
一撃目は避けられてしまったが、さらに遠心力を利用し、二撃、三撃と繰り出す。
「重々しいですわ。この殺意……クセになりそう」
「まずはその口から裂きますか」
「あぁ怖いですわ。女の子の顔は傷付けちゃいけませんのよ?」
「……黙ってください」
話し合いなんてもの、最初からする気はない。
……レットくん、バンガおじさん、リュンネちゃん、アンサゴくん、イズキさん……殺された五人の報いは受けさせなければいけない。
だってわたしは、ここの団長なのだから。
「【
「……いいですわね。恵まれ、親しまれ、慕われ、本当にわたくしとは大違い……」
ブツブツと何を……そんなこと言っている間にも、わたしの剣はもう既に首を狙っているというのに。
「……斬って差し上げますわ。あの者たちと同じように────」
「ッ! 絶対、クラールはあなたを殺しますッ!」
「叶いませんわ。アニムスマギア……【
その瞬間、わたしの剣は意図も容易く、紙をナイフで切り裂いたかのように断ち斬られた。
「……なんっ」
「【
「────くぅッ!?」
なに、この力は!? 硬度関係なしに、狙った場所を斬ってくる……!
「言ったでしょう。斬ることだけが取り柄なのですわ。わたくしのアニムスマギアは、絶対に斬る。どんなものでも斬って、分断する……魔王様から頂いた大切な力なのですわ」
わたしの髪は斬られ、防具も、もはやある意味がないほどズタズタだ。
武器もなく、念の為隠しておいた短刀が断ち斬られていた。
正直、相手の実力を舐めていたかもしれない。
暗い森の中で、不意を突いて殺すなんて
「さて……口を裂くとか仰っていましたね。わたくしがお手本を見せてあげますわ」
「……もう丸腰、何も出来ないとでも、思っているのですか」
「えぇ、それが何か」
「なら、あなたはもう少し……警戒心を持った方がいいです。【
「まだ隠し球を……ッ!」
魔法で何かを形成し、維持し続けるのは難しい。
その間、ずっと魔力を使い続けなければならないからだ。
さらには、わたしが作り出した炎剣はその名の通り、炎そのもの。
熱に強い炎属性の妖精種、サラマンダーでも、ずっと握り続けていれば手に火傷を負う。
それでも、シュナのドレスを焦がすことが出来て少しスッキリする。
アニムスマギアを使う隙を与えず、接近戦に持ち込めば……いける。
「……あら、勝てると思っているのです? わたくし言いましたわよね。どんなものでも斬って、分断すると」
「でも狙って特定の場所を斬ることは、その目を見ていればわかります。【
シュナが見ている光景が、わたしの左眼に映し出される。
狙っているのは……右手。
腕を落として攻撃させなくするつもりなのだろう。
なら、その前に……!
「ハァァッ!!」
「ええ、わたくしは確かにあなたの右手を見ていました。その前に動けば、狙いは当然外れるでしょう。ですが、どうやらあなたは見るだけで、感じることは出来ないようですわね。……【
「─────えっ、どう……して……」
一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。
わたしの炎剣は確かにその手にあったはずだ。
しかし、シュナがアニムスマギアを使うと同時に、炎剣はわたしの手から消えていた。
「ど、どういうことなのですか!? あなたは、クラールの右手を斬ろうとしたのではないのですか!?」
「いいえ。斬ったのは、あなたと魔力の繋がりですわ」
「……は?」
「今のあなたは、外からの魔力も、自身の中の魔力も使えない。というより、もう空っぽなのですわ。魔力との繋がりが断たれたのですから、あなたの内に魔力はもうない。……あら、そういえば妖精種は魔力から生まれるものでしたね。大丈夫ですか?」
「な……にが……」
「お気付きでないの? あなた、消えかけているのですわ」
即座に、自分の両手を見る。
しかし透けて、地面が見えていた。足はもうほとんど見えない。
「妖精種の根源、命とも言える魔力との繋がりが無くなったあなたは消滅するしかない。チェックメイトですわね」
────あぁ、また油断した。
これで終わりなのですね……。
申し訳ございません、エストレア様……ごめんね、ルーフェ……。
何も、出来なかったです…………。
「────安心して、クラール。誰も死なせないわ。あなたも含めてね」
暖かい光に包まれ、わたしは失いかけていた意識を取り戻す。
目を開けばそこには、女王様が立っていた。
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