『Star Cluster』3/3
翌朝、ギルドメンバーたちに見送られながら、私、ルフトラグナ、ルーフェは、エストレアの【
潮風が私たちを出迎える。
海が近く、この戦いが終わったら海水浴でも楽しみたいところだ。
石造りの街並みに、街路樹はヤシの木のようなものが生えており、街の人たちは皆半袖半ズボンと涼しげだ。
「おっ、きたきた! やっほー! あんたたちがニンフェギルドの?」
すると、やけに馴れ馴れしく手を振って、紫髪で水着姿の女性が走ってくる。
……なぜ水着姿なんだろうか。
周りに水着姿の人たちは誰もいないので、かなり目立っているはずなのだが、誰もその女性を気にする様子はない。
「ニンフェギルド、副団長のルーフェ・ロゥと申します。こっちがルフトラグナ、そしてベルです。微力ながら、加勢致します!」
「……へ?」
「あ、そうか。二人は初めてなんだった。こちらは────」
「あっ! 名乗りは自分でするから! えー、こほんっ」
紫髪の女性はわざとらしく咳払いをすると、絵に描いたようなドヤ顔で名乗り始める。
「あたしの名はセイルナ・メアーゼ!
「メアーゼ……って、女王様ってこと!?」
「あっははは! 凄い、想像通りの反応だ! ベル、エストレアから聞いてるよ~? 期待してるから頑張ってよね!」
私はメアーゼ女王、セイルナに背中をバシバシと叩かれながら言われる。
エストレアとは全く違う、なんと言うか……女王様というより、同学年だけど別クラスの友達みたいな人だな……なんて思った。
「あ、早速メアーゼギルドに案内するよ」
「せ、セイルナ様直々にですか!? そ、そんな」
「ほらほら、着いて来ないと置いてっちゃうゾ~! 気にすることないない! だってあたし何も出来ないんだから、このくらいはね!」
本来、一国の王は力ある者がその座に着く。
ベスティーでは何年かに一度行われる王決定戦で力比べをして王様を決める。
ニンフェも、最も能力の高い者……というか、その国を形成する森から生まれた妖精種が王となる。
ヴァルンは王族から選ばれるが、王に相応しい人間でなければ国民からは受け入れられない。
そんな中で、このメアーゼは特殊だった。
「ここってさ、他の国よりちっこいのよ。勝る部分なんてないくらい、何にもない国だった」
私たちは街を歩き、セイルナは民に手を振りながら、暇つぶし程度に話す。
「先代の王はすっっごいバカでさー、後先考えずになんでも、その時思ったことをすぐにやる……行動力だけが取り柄の人だったんだ~。そんな王様がある日、捨て子を拾ってきたの。んでそれあたしね」
「えっ!? じゃあ……」
「そ、あたし別に王族でもなんでもないのよ。まぁバカな王にはバカな民よね。子供の居なかった王様はあたしを次の王に指名した。それに誰も反対しなかったわ」
バカと罵っているのは周りの人たちに聞こえている。
だが、セイルナを見る目はまるで自分の娘、友達、姉を見るような目だった。
「そんなバカな俺たちのために王になっちまったお前も充分バカだよー!」
「なにおーう! じゃあ次はあんたが王よ!」
「そりゃ勘弁してくれ! 椅子に座りっぱなしは苦手なんだよ!」
誰とでも、同じように接していた。
子供たちとじゃれ合い、大人たちと談笑し、冗談を言い合い、笑い合っていた。
「……バカな王様だったけど。『みんな俺の家族だ』ーって言い切ってる姿はカッコよかった。あたしの本当の家族は知らない。でもあたしを育ててくれたこの場所は、あたしにとって家であり、みんな家族なの。だから────」
テントの前に到着すると、セイルナは私たちに頭を下げてくる。
「お願い……ここを守って……!」
「……そんな涙目で言われちゃったら、断る気にもなれませんよ。それに任務を放棄して海で遊ぶ、なんてことする勇気はないですし。絶対、好きにさせたりしません」
「……っ! ありがとうベル! あたし、あんたのこと好きよ! 死んだら承知しないからね!」
「はいっ!」
水着なのはよくわからないけど、国民……いや、家族想いのいい王様だ。
そんな王様に案内されたメアーゼギルドの大きなテントには、少数ながらも精鋭たちが集まっていた。
セイルナの姿を見ると、皆一層気を引き締める。
セイルナの家族を守りたいという気持ちは、ギルドメンバーや国民も同じなのだ。
「んじゃあこれより、『家族を守るぞー!えいえいおー!作戦』を伝える。……ネーミングセンスから察しているかと思うが、これはセイルナが名付けた」
「ちょ、ルーク! あたしのセンスそんな悪いかなぁ!?」
「ねーよ。つか微塵でもあると思ってたのか」
「そこまで言う!?」
青銅の鎧に身を包んだ男は、メアーゼギルドの団長……ルーク・アレイ。
セイルナとは幼馴染らしいが、それにしても随分と仲のいい。
「あー、そしてニンフェからの応援も来てくれた。代表して礼を言わせてもらう。ありがとう。見ての通りだが、メアーゼギルドはメンバーが百人も居ない。戦える者は三十人程度だ。副団長なんてもんもねーから、作戦会議っつっても人数が必要な作戦は建てられない。そんなわけで難しいことは出来ねぇもんだから、個々の戦闘能力が頼りだ」
「えぇ、もう少し人がいればと思ったのですが、ニンフェはニンフェで追い込まれていて……」
「あぁわかってる。そんな状況なのにそっちの副団長さんを寄こしてくれたんだ。充分だよ」
ルークはそう言うと、手のひらサイズの鉄球をテーブルに置く。
「ルーク、それなに?」
「魔法道具。魔力がある場所ならどこでも、リアルタイムで映し出してくれるモンだ。ちょっと使いづらいけど、まぁ敵が攻めてくるとしたらここだけだろうしな」
そう言って、魔法道具をトントンと二回指で叩くと、メアーゼの外、山と山の間にある小さな草原が映し出される。
「メアーゼの入り口はここだけだ。みんなにはそろそろ家ん中に隠れてもらうよう伝えてる。どこに避難したって同じだしな。俺達が頑張るしかねぇ。ここで食い止められなかったら街中での戦闘になっちまう」
「あの、質問いいですか?」
「あぁ。お前は確か……新人のベルか。なんだ?」
「相手の目的はこの国にある《
「湖ん中だ。正確な場所は俺達にもわからない」
「湖……じゃあ、海の方から来る可能性もありますよね」
「……海から……か。なるほどな、確かに距離的にはそっちの方が近い。……よし、少々危険だが二手に分かれよう。メアーゼ入り口に俺を含めた二十名。残りは海側だ。そっちのリーダーはルーフェさんに任せていいか」
「はい、お任せください!」
私の意見はあっさり通り、私たちを含めた十三名は海と湖を繋ぐ川辺へ移動する。
そう広くない川で、足場も小石が転がっていてお世辞にも良いとは言えない。
「接近戦は気をつけた方がよさそうか……。ルーフェ、どうする?」
「うん、とりあえず全員周囲を警戒! 海の方角、それと傍の森から不意打ちも考えられる! ……あ。あと転んで川に流されないよーに!」
「「「了解ッ!!」」」
副団長としてのルーフェは優秀で、メアーゼギルドのメンバーたちも素直に尊敬しているのか、しっかりとした返事をする。
「わたし、空から見てみます!」
「わかった。何かあったらすぐ降りてきてね」
「はい!」
空へ羽ばたくルフトラグナを見上げて、私は陽の光に目が眩む。
穏やかな風は気持ちよく、天気もいい。
「……周囲に魔物の気配も感じられないね」
「妙ね、この辺りは無害な小妖精がたくさんいるはずなんだけど……」
小妖精とは、妖精種の中でも超小型。
エストレアやクラール、ルーフェのような人型ではあるものの、手のひらサイズの体で光の羽を持ち、自由に宙を舞う者たちだ。
意思疎通が取れる小妖精は稀で、取れたとしても同じ妖精種でなければ理解出来ない。
メアーゼの水辺は綺麗で、ニンフェと同じくらい自然も豊かだ。
小妖精が暮らすには充分すぎる環境なのだが……。
「ハッ! そりゃーそーでしょーよ! オレが昨晩のうちに全部ぶっ殺しておいたんだから!」
「ッ! 何者────って、黒騎士!? 全員戦闘態勢ッ!」
突然森の影から姿を現したのは、真っ黒な鎧に身を包み、青く透き通る両刃剣を持った男。
そう、例の黒騎士だ……。
顔は兜で隠れていて見えない。
「あー、ったく。二手に分かれてるなんて、どこのどいつだよ。んな提案して奴は! おかげでこっちの作戦めちゃくちゃじゃねぇかよ!」
「作戦……?」
その瞬間、私たちの耳にルークの声が聞こえる。
────「黒騎士が現れた」、と。
「なっ、どういうこと……?! 黒騎士は二人いるの……!?」
「ご名答! さっすがニンフェギルドの副団長! オレの名はアルフ。んでもう一人がお前たちが追ってるアレスだ」
剣を振り回しながら黒騎士────アルフは言った。
「そんなことペラペラ喋っちゃっていいのかな」
「あぁ、安心してくれ! だってよ、この場の全員ぶっ殺せば問題ねーだろ!」
アルフは剣を軽く、上へ放り投げる。
すると、空からの光線を弾き防いだ。
ルフトラグナの不意打ちを予測したのだ。
「くっ、すみません! 防がれました!」
「大丈夫! ルフちゃんはそのまま空から援護お願い!」
「そりゃ困るぜ! 落っこちてもらわねーと……なッ!!」
光線を防いだ剣をキャッチすると、すぐさま持ち替え、ルフトラグナを狙って投擲する。
「【
「もう狙ってるよ! ────ショットッ!」
投擲された剣は私の透明色魔法で作り出した壁で防ぎ、武器を持たない状態になった黒騎士アルフにルーフェが矢を放つ。
兜と鎧の隙間、アルフの首を掠めることしか出来なかったが、炎の矢は燃え、火傷を負わす。
「ぐおっ!? 速い…っ、噂の【
「……はっ!? ルフちゃん避けて!」
私がアルフの意図に気付き、ルフトラグナに指示した時には、アルフの剣は透明の壁を穿っていた。
「【
ルフトラグナは瞬時に光の壁を形成し、なんとか剣の向きをズラすことで急所を外す。
それでも、左翼を掠めたせいで落下してしまった。
「危なっ! っと、大丈夫!?」
「は、はい……これならまだ、治癒で治せますっ」
落下したルフトラグナをキャッチし、左翼の傷を見る。
かなり深く斬られてしまっていて、白い翼が赤く塗られていた。
アルフの剣はまるで生きているかのように方向転換すると、持ち主の元へ戻ってくる。ただの剣ではないようだ。
「くへっ、ハハハハッ! この剣は魔王様より頂いた《精霊剣・サクリファイス》ッ! 殺せば殺すほど力を増し、所有者の言うことをなんでも聞く最高の剣だ! んでもって……」
アルフは腰のポーチから何かを取り出すと、それを摘んで見せつける。
……小妖精だ。
羽を摘まれ、身動きが取れず、涙目で私には聞こえない何かを叫んでいる。
「アニムスマギア……【
その瞬間、私たちが止める間もなくアルフは小妖精を握り潰した。
少量の血が垂れ、光になって消えていく。
「オレのアニムスマギアとの相性最高! もうこの辺りの妖精は全部殺した! もう何百、何千殺したかわかんねぇよ! でもまだ足りない……もっともっと、命をくれ……! オレの糧になってくれ!」
「許さない……アタシはお前を絶対ッ!」
「待って、ルーフェ!」
同族を殺された怒りか、ルーフェは炎の矢を握りしめ、単独でアルフに突撃する。
「俺たちも行くぞ!」
「「オォォッ!!!」」
メアーゼギルドのメンバーたちはルーフェに続く。
……だが。
「遅い、軽い、弱いッ! 連携も取れてねぇ! そんなんじゃオレに殺されちまうぞぉ~!」
「【
ルーフェの周りに散った火の粉が突如燃え上がり、その全てが矢となり、一斉に放たれる。
アルフへの集中攻撃……爆発が発生し、川の水が大きく揺れる。
「っ……おおぉ、おおおおおーッ! 今のはすげー効いたぜ! そういうのもっと撃ってこいよッ!」
喜びながらアルフは精霊剣を振り下ろす。
ギリギリで、ルーフェは弓で受け止めるが……体格差も相まって地面に膝をつけてしまう。
「じゃあこれでどう! 【
「チッ! おめーのは見えないからめんどくせぇなぁ!!」
ルーフェがやっていたように、私は透明の刃を無数に作り出し、なるべく不規則に動かしてアルフを斬り付ける。
アルフは見えない刃から身を守ろうと、適当に剣を振り払っている。
「ルフちゃん! 一緒に!」
「はいッ!」
隙を見てルーフェが後退したのを確認すると、治癒を終えたルフトラグナと共にアルフを狙う。
「【
「【
「─────なッ!?」
二つの光は螺旋状に纏まり、透明の刃に気を取られていたアルフを焼き貫く。
左眼辺りに命中したが……兜の一部が砕け、アルフの火傷した顔半分を見ること以外、収穫はない。
「……お前、その魔術は。……そうか、お前があの魔術師の弟子かよ。上手くいかねぇわけだ」
よろよろと立ち上がったアルフは、火傷し、閉じていた左眼を開くと私を睨む。
銀の瞳に銀の髪。
人間でありながら、どこか人間味を感じない雰囲気に、私は思わず後ずさる。
「めんどくせぇなぁ、おい。────アレス、誰も殺せそうにねぇ。突っ切っていいか。……おう、了解。んじゃあここいらで、戦闘終了だ」
アレスと連絡を取ったアルフはそう言って忽然と姿を消す。
宣言通り、自身が転移することで戦闘を終わらせる。
だが逃げたのではない。
どこに行ったのかは、勘でわかった。
「やられたッ! 津殃石が────!」
刹那、メアーゼ全体を凄まじい衝撃波が襲う。
湖が爆発し、水飛沫が雨となり、周囲を濡らし始める。
光の柱が天へ昇り、衝撃波の力か海が荒れる。
「……敵反応消滅。黒騎士の二人は追えないってさ」
ルークの方……アレスも消えたらしく、ルーフェは悔しそうな表情で皆に伝えた。
────湖国メアーゼ、人的被害無し。
《
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます