終焉は眼とともに

終幕

 世界は今崩壊しようとしていた。

 崩壊する世界の中心点には、死神の眼を宿し少女ーーレイが孤独に立っている。


「誰か……誰か……。私を、私を止めてよ。誰でも良いから、この目を止めて…………」


 レイは叫んでいた。

 眼の前にあるものが次々と消えていき、視界に入るものはその姿を消失させる。


 眼を閉じたくても、眼は閉じることはない。

 まるでまぶたの時が止まったかのようにまぶたは動かず、眼を遮断してはくれない。


「レイシー、レイシー、レイシーぃぃぃぃぃいい」


 叫んでも、魔王は来ない。

 未だ魔王は現れてはくれない。


「レイシー。お願い。今、今私を助けて。強欲な願いだって分かってる。傲慢な願いだって分かってる。それでも願わないのは怠慢だと思うから。このまま人を死なせることこそ怠惰だと思うから。だからお願い。私を助けてよ。レイシー」


 世界は崩壊していく。

 生物のみに干渉していたはずの少女の眼は、今では視界に入るもの全てを消してしまうという事象にまで陥っている。


 自分の力が暴走し、開いたままの眼からは涙が溢れる。


 涙で視界がぼやけようとも、崩壊は止まることなく連鎖する。

 崩壊が崩壊を生み、そこへ更に崩壊が連なる。それ故に崩壊は収まることはなかった。


 誰も彼女は止められない。

 そうやって世界は終わっていく。

 滅んでいく。


「ごめん。皆……レイシー……。私は世界を、滅ぼしちゃうんだ……」


 壊れていく。

 あらゆるものが壊れていく。

 その世界で一人、少女は孤独に嘆いていた。


 そこに手を差し伸べる者は誰一人としてーー


「すまない。しばらくお前を一人にした」


 少女に手を差し伸べる者がいた。

 誰よりも屈強な精神を持ち、そして誰よりも気高い心を持ち、そして誰よりも孤独に抗った男がいた。


「レイシー……」


 魔王が、少女の手を掴んだ。


「ごめん。ごめんね、レイシー。私、世界を滅ぼした」


 レイの視界に入る全ては崩壊していた。

 それでも魔王だけは消えず、少女の手を掴んでいた。


「レイ。どうせならこのまま終わり逝く世界とともに滅ぼう」


「レイシーが行くなら、私はどこへでも着いていく」


「ありがとう」


 崩壊した世界の中心で、二人は静かに手を重ね合わせた。


「ありがとう。レイシー。私の側にいてくれて」


「俺も一人だった。俺も嬉しいよ。レイ」


 崩壊した世界の中心で、二人は静かに消えていく。




ーーそして世界は

 終わりを告げるーー

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バニッシュアイと大魔王 総督琉 @soutokuryu

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