5話目『世界情勢』
イェリクサーの死。
それを目の前で止められなかった。
魔王は転がるイェリクサーの首を見て、静かに固まっていた。
「魔王様、ついでにあなたも殺してあげましょう。その方があなたも嬉しーー」
「はあああああああああ」
魔王はラファエロの腹へ火炎を纏わせた拳で一撃を与えた。
それを受けたラファエロは吹き飛び、壁に激突する。
「痛いな」
そう言いながらも、ラファエロは平気そうに立ち上がった。
「まあ良い。魔王、あなたはここで始末する」
ラファエロは黒い翼を広げ、魔王へと滑空する。
しかし魔王は転移し、その場から姿を消した。
「ちっ。逃げられたか」
石を蹴り、小さな怒りの発散をする。
そこへ、背後より一人の男が駆けつけてきた。
彼が身に纏っているのは王国兵の鎧。
「何かあったのか?」
「ラファエロ様。ただいま聖ミハエル騎士団が帰還致しました」
「そうか。もうか。ならそろそろ戻るとするか」
ラファエロは王宮へと飛んでいった。
監獄で起きた事件の一部始終を見ていたメレインは、色々と戸惑っていた。
今回の騒動により監獄は半壊し、数名の囚人が死亡している。中にはまだ生きており、外へ逃亡した者もいる。
「私は……私はどうすればいい……」
分からないまま、メレインはその場に膝をつき、ただ呆然と空を眺めていた。
ーー王宮内部
そこでは現在、帰還したばかりの聖ミハエル騎士団の幹部と騎士長が玉座の前に召集されていた。
玉座には王が座っており、王は静かに帰還したミハエル騎士団上層部のメンバーを眺めている。
「それで、戦争の結果は?」
「我々聖ミハエル騎士団計五百名の内、百名が死亡。その代償として"敵"の連合軍の侵攻を阻止しました」
この世界にはモンスターが生み出される謎の地点が存在する。
そこから出現するモンスターの進軍を阻止するために、この世界に存在するあらゆる国がそれぞれ軍を派遣し、毎日のように戦闘を行っていた。
そのため、こ
その内、魔法国家エルドラゴンが所有する軍ーー聖ミハエル騎士団は先ほどまで、侵攻を計ってきていたモンスターと激しい戦闘を行っていた。
「未だに戦争は終わらないとは、全く、いい加減
国王は嘆くように呟いた。
それに、聖ミハエル騎士団騎士長サエルは返答する。
「ええ。全くその通りです。しかしもしその兵器が敵の手に回ってしまえば本末転倒です。一番良いのは敵がこのまま侵攻をやめてくれることを祈るだけです」
「ああ。本当だ。だが小さな島々の民どもは常に大きな大陸への侵攻を望む。それが我々が背負った大罪、強欲であるというのに」
呆れたようにため息がこぼされた。
「まあ食い止められたのは良いが、今回ばかりは百名という大きな損失を負っている。いつもならあり得ない数じゃないか。一体この戦争で何があった?」
国王の鋭い質問に、サエルはしばらく固まっていた。
それから次に口を開けるまでにかなり時間がかかった。
「はい。敵が侵攻してきたのは山が幾つもある山岳地帯に繋がっている海岸。そのため複雑な地形をしている場所です」
「ならば尚更兵の損傷は少ないはずではないのか?地の利を利用すれば、兵の損傷をゼロにすることもできただろ」
「そうなのですが、どういうわけか、今回戦闘を行っていた最中、一つ目が描かれた紙で顔を覆う謎の集団に襲われました」
「何だそれは?つまりモンスター以外の何者かが裏切りを?」
「はい。その可能性は極めて高いでしょう。しかし我々は気づかなかった。彼らの正体を早急に掴まなければ、また多くの被害が出る」
それからサエルは続ける。
「しかしそれほど巨大な組織に気づかなかったのはおかしいでしょう」
「まさか……」
国王はある考えを抱いた。
それはサエルが考えていたことと同じこと。
「あくまでも可能性ですが、どこかの国が彼らの存在を隠している」
「そう来たか。ここで裏切り者の登場、なかなかに追い込まれてしまったな。我々は」
「はい。しかしその国には心当たりがあります。我々が戦っていた戦場に最も近かった国、それが"アイランディア"。つまりその国が寝返っている可能性が高いということです」
「ならば明日にでもその国を探る偵察隊を派遣するとしよう」
それからしばらくして、話は終わった。
その後サエルらが王宮から出ていくのとすれ違いに、ラファエロが王宮へと帰還した。
「ラファエロ、今までどこへ行っていた?」
「申し訳ございません。しかし有益な情報を手にいれました」
「一体なんだ?」
「この国に、魔王が来ています」
ラファエロが言った有益な情報に、国王はわき上がるような笑みを浮かべる。
「そうか。それで、捕まえたのか?」
「いえ。逃げられました」
「それのどこか有益な情報だ」
国王は怒りの前兆を見せる。
しかしラファエロは淡々とした口調で続ける。
「確かに逃げられましたが、確実に魔王を誘き寄せる切り札を捕まえておきました」
ラファエロが黒い翼に包んで連れてきていたのは、目隠しをしている少女ーー
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