4話目『決められた過去』

 その日、イェリクサーが処刑される日がやって来た。

 彼女は不老不死の霊薬『エリクシル』を製造しようとしたことでこれから処罰を受けようとしていた。

 それを止めるべく、魔王は宿屋にて静かに決意を固めていた。


 その日、魔王は宿屋で提供された食事をすぐに食べ終えた。

 その横でレイは淡々と食事をしていた。


「ねえレイシー、もしかしてさ……」


「何だ?」


「いや、なんでもない」


 質問をしようにも、その時の魔王はどこか殺気だっており、近づきがたい雰囲気を醸し出していた。

 まだ出会ってから一日、レイは自分はまだ魔王のことを何も知らないのだと感じた。


 レイが食事を食べ終えたのを確認すると、魔王はレイへ言う。


「レイ、今日は少しこの国を見て回ってくる」


「帰ってくるよね」


「ああ。もちろん帰ってくるさ」


 魔王はレイにそう誓った。

 それから魔王は宿屋を出て、人気のない路地裏へと入る。偶然にもその頭上を、一人の魔法使いが飛んでいた。

 それはメレインであった。


 彼女は建物の屋上に着地し、魔王が何をしているかを見ていた。

 すると魔王は骸骨の仮面のようなものを手に出現させると、それを顔に被った。


 その姿をメレインは知っている。

 この国の教育過程にて、歴史というものがある。その歴史上にはこのような人物が出てくるという。


 骸骨の仮面を被り、悪魔のような角を二本生やし、全身を龍の鱗で包んだ男がいる。彼は自らをこう名乗った。


「ーー魔王」


 メレインは驚き、魔王の動向を観察していた。


「どうして魔王がこんなところに!?それもこの魔法が発達したこの国に……」


 考えている最中、メレインは思い出す。

 魔王がイェリクサーに会いに来たと言っていたことを。


「まさか……」


 その予感は的中し、素顔を隠した魔王は国の外れにある監獄へと一直線に向かっていた。


「まずい。早く一級の魔法使いに連絡をしなきゃ……。いや、ここは王国兵に任せた方が良いか?だがもしあの男が伝説上の魔王だとすれば、王国兵などが太刀打ちできるのか?」


 混乱し、テンパっていた。

 メレインは考えることを放棄し、ひとまず魔王の後を追うことにした。


 監獄前に魔王はついた。


「大精霊。派手に暴れるぞ」


「オッケー。それじゃあ早速爆裂魔法でも打ってみようか」


「ああ。それは面白いな」


 魔王の両手には爆炎によって描かれた魔方陣が展開される。

 その魔方陣は監獄の方へと向けられている。


「放て。大精霊」


「オッケー」


 直後、巨大な爆炎が魔王の手から放たれ、監獄の入り口を跡形もなく吹き飛ばした。

 その威力に、巨大な爆煙が監獄から漂っている。


 その煙を見て、国中の人々が困惑していた。


「一体あそこで何が起きている!?」


「王国兵は何をしているの」


「あの爆煙……まさかどこかの国がこの国を襲撃してきたりとかしてないよな……」


 国中の人々が騒いでいた。

 その騒がしい声を聞き、宿屋に泊まっていたレイは何かを感じた。

 目隠しをとって様子を見に行きたいが、そんなことはできなかった。


「レイシー、大丈夫だよね……」



 魔王は監獄で派手に暴れていた。

 彼を止めようと監獄の警備に当たっていた王国兵が槍を構え、魔王へと刃を向ける。

 だが刃は腐蝕し、錆びて使い物にならなくなった。


「そこを退け」


 突風が吹き荒れ、王国兵らは吹き飛んだ。


 その光景をメレインは声も出ず、ただ見ていた。


「イェリクサー、今助けに行くぞ」


 監獄内にはイェリクサーの他にも大勢の囚人が捕まっている。

 その中からイェリクサーを探すことは困難であった。


 大精霊は対象者を探す魔法を有している。しかしその対象者を見つけるまでには少し時間がかかる。

 そのため、魔王はまだかまだかと苛立っていた。


「大精霊、まだイェリクサーは見つからないのか」


「ここの一個下の階、そこにいる。転移するよ」


「了解」


 大精霊の魔法により、魔王は下の階へと転移した。

 そこにはイェリクサーの姿があった。


 久しぶりの再会、それを喜ぶ、などということはできなかった。

 なぜなら今、イェリクサーの首には刃が当てられていたのだから。それも見覚えのある一人の男の手によって。


「へえ、もう来たんだ。


 不適に微笑む一人の少年。

 彼はかつて、魔王が率いていた魔王軍の幹部を務めるほどの実力者ーー


「ラファエロ。どうしてお前がイェリクサーを殺そうとしている」


 イェリクサーもまた魔王軍と密接な関わりがあった。

 そのため、ラファエロとイェリクサーは知り合い同士であった。それがなぜか、ラファエロは無慈悲にイェリクサーの首へ刃を当てている。


「魔王様、生憎私は今はあなたの味方ではない。つまりですね、あなたの指示に従う必要はないということです」


「待て。殺すな」


「殺すな?魔王様、あなたの時代は終わったんですよ。誰が今さら過去の時代の者の言うことを聞くんですか?」


「ラファエロ……やめろぉぉぉおおおおお」


 魔王はラファエロのすぐ側まで転移する。しかしその瞬間、ラファエロの背中から生えた漆黒にまみれた翼の打撃を受け、吹き飛ばされた。


「やはりに力を失っていますか。今のあなたに私を止めることはできない」


 ラファエロは大きく槍を振り上げた。

 魔王はすぐに立ち上がろうとする。それを見てイェリクサーは叫ぶ。


「来るな。今のお前が敵う相手ではない」


「駄目だ。俺はお前から聞かなきゃいけないことがある。だから、こんなところで死なせるかよ」


「死ぬさ。私はここで。それが決められてしまった過去なのだからーー」


 ラファエロは、イェリクサーの首へ目掛けて刃を振り下ろした。

 魔王は再び転移するが、それよりも先に、ラファエロの刃はイェリクサーの首を跳ね飛ばしたーー

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