魔法国家エルドラゴン

序章

3話目『遠ざかる手がかり』

 魔法国家エルドラゴン。

 そこはかつて龍によって護られていたという伝説が残る国。

 その国は今では世界で最も魔法学が優れており、優秀な魔法使いが多く暮らしている国でもあった。

 人口は百万人を越えるほどの巨大な大国。


 空を見れば魔法使いたちが飛び交い、一歩でも街へ入れば魔法を使った大道芸人のショーを見れることだろう。


「レイ、もう魔法国家についたぞ」


「なんか変な音がいっぱいする。爆発する音とか、獣のうめき声とか」


「ここはそういう国だ。結構面白い場所だから、早くその目の謎を解き明かしてこの国を楽しめると良いな」


「うん」


 レイは元気よく返事をする。


 国への入り口である門で王国兵に止められることなく、魔王とレイは国内へと入っていく。

 その姿を、門の上に座っていた少年は見ていた。


「へえ。まさかこんなところで出会えるなんてね。僕と同じーー」



 魔王は宿屋へと向かった。

 その道中で、ほうきに乗った魔法使いが一人、二人の前に降りた。


「私は治癒魔導士のメレインと申します。そこの少女は目を怪我されているのですか?」


 突如現れた魔導士の問いに、魔王は返答に悩む。


「まあ、そんなところかな」


 渋々その問いに答えた。

 しかしその後、魔導士はもう一度違う問いをかけた。


「それでは少女の目の怪我は私が治しましょうか?治癒魔法の検定は一級ですので治すことはできます。もちろんタダで良いですよ」


「いえ。彼女の目の怪我は少し特殊なものでして、それで知人にこの目の怪我について知っている者がいますので、大丈夫です」


 魔王は丁寧に答える。

 その答えにメレインは少しがっかりしていた。


「そうですか。では案内だけでも致しましょうか?」


「知っているか分かりませんが、知人の名前はイェリクサーという人物なのですが」


「イェリクサー!?」


 その名を聞き、なぜかメレインは驚いていた。

 たとえ彼女の名前を知っていたとしても、おかしい反応だった。


「彼女に何かあったのですか?」


「実は……彼女は明日、処刑される予定です」


「処刑!?」


 魔王は愕然とする。


 魔王と手を繋いでいるレイは、繋いでいる手から伝わる震えを鮮明に感じていた。


「レイシー、大丈夫」


「いや……どうかな」


 動揺を露にし、魔王は頭を抱えている。


「なあ、なぜイェリクサーは殺されなきゃいけない」


「これは私が知る限りの情報ですが、彼女は禁忌の霊薬ーー"エリクシル"というものの製造をしようとした罪で王国に捕まりました。

 エリクシルは不老不死の霊薬、それを飲んだ者は不老不死になるとか」


「なぜそれが捕まるということに繋がるんだ」


「はい。この国には法律というものがあります。それは多くの国にありますが、それは国によって異なります。そしてこの国の法律にはこのような一節があります。

『人が不滅を望むのならば、再生を望むことはないだろう』と」


「それが何だ」


「つまりは、もし人の体を不滅にしてしまう霊薬があるとすれば、人は再生へと進むことはないだろう。だからこそ、そのような者をつくった者へ処罰を下す」


「だから、処刑されると……」


 魔王は改めてイェリクサーが処刑されるということを理解し、そして震えていた。

 依然として魔王の手は震えたまま、その震えが止まることはない。


「どうやら私は用済みみたいだ。それじゃあ二人とも、またな」


 そう言ってメレインはほうきに乗って国のどこかへと飛んでいった。


「レイ、宿屋へ向かうぞ」


「う、うん……」


 宿屋へ行くまでの間、魔王は一言も発さなかった。

 その間、魔王の手は相変わらず震えていた。



 それから宿屋へと泊まった日の夜、魔王は用意された食事も食べることなく、風呂にも入ることはなかった。そして眠ることもなく、魔王は一人宿を出た。

 その日の夜、宿屋には響き渡った。

 一人の男の泣き叫ぶ声が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る