04-04-04 晋四 苻堅 下 淝水

 長安ちょうあんにて、東晋とうしん総攻撃についての議論が立ち上げられた。あるものが言う。

「晋には長江ちょうこうバリアーがございます」

 苻堅ふけんは答える。

「我らは百万の軍ぞ、長江に我らの馬鞭を投げれば、せき止めることとてたやすかろうに!」

 誰も彼もが苻堅を諫めるのだが、その中で慕容垂ぼようすい姚萇ようちょうだけは、失敗に乗じたいと目論んでいたため、苻堅に南征を勧めた。


 こうして苻堅は歩兵工兵六十万あまり、騎兵二十七万を率い、南下を開始した。


 東晋軍との前哨戦が洛㵎らくかんで行われた。完敗であった。東晋軍は勝利に乗じ、整然と進軍。

 苻堅はこの様子を寿春じゅしゅんの城から眺め、その厳正な進軍ぶりを目の当たりとした。また近くにある八公山はちこうざんの草木がやけに生い茂っているかと思えば、それがみな晋の兵士たちであることに気付かされる。苻堅は憮然とし、あわせて恐れの色もありありとにじませていた。

 前秦軍が淝水ひすいのそばにまで迫り、陣を敷く。そこに謝玄しゃげんがひとを遣わせ、このように伝えさせる。


「陣を少しくお下げになられよ。我らの渡河を待ちて、勝負を決そうぞ。いかがか?」


 苻堅は晋軍の渡河を許すも、半ばまで渡ったところでの総攻撃を仕掛けようと目論み、兵らに下がるよう命じた。しかし、一度下がり始めた兵たちは止まろうとしない。加えて前秦軍後方に待機していた朱序しゅじょが、叫ぶ。


「秦軍、破れたり!」


 この声を聞き、前秦軍は恐慌に陥った。そこに謝玄が突撃をかけ、大いに前秦軍を打ち倒す。逃げ帰らんとするものは、風の音や鶴の鳴き声を聞くだけでも、晋軍がやってきたものだと恐れた。

 苻堅もまたうろたえ、長安ちょうあんに逃げ帰った。


 長安に戻った苻堅を待ち受けるのは、慕容垂や姚萇の離反であった。更に慕容暐ぼよういの弟、慕容沖ぼようちゅうよりの攻撃を受ける。進退窮まった苻堅は長安城ちょうあんじょうより脱出、態勢を立て直そうと試みたが、間もなくして姚萇ようちょうに捕らえられ、殺された。

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