04-01-04 東晋 王導 2

 王敦おうとんが決起したのを受け、王導おうどうは宗族らを取りまとめた上、毎朝城に赴いた上謝罪を重ねた。


 このとき、そばを周顗しゅうぎが通りがかり、城に入ろうとする。王導は周顗を呼び止め、語り掛ける。

「周顗殿、我が係累百人余りを、そなたに委ねたく思うのだ」

 しかし周顗はその呼びかけを無視し、城に入ってしまった。ただし元帝げんていに謁見すると、懇懇と王導の忠勤を語り、助けるべきである、と説く。元帝もその言葉を受け入れた。

 常に酒が入っていた周顗はこのあとにも飲んだようで、城から出るときにもまた酔っていた。いまだ城の前にいた王導がふたたび周顗に呼びかける。やはり周顗は応えない。代わりに、側仕えたちの顔を見回して、言う。

「さぁ、今年は賊徒どもを殺して、金印を腰に佩びる栄誉に浴そうか!」

 そうして王導の前から立ち去ったのだが、帰宅すると、再び王導の無罪を証明する上表を綴った。

 王導はそうした周顗のツンデレに気付けず、恨みを抱くようになった。


 元帝が王導を召し出すと、王導は稽首、つまり土下座のうえ首を晒し、そのまま斬られても文句は言いません、といった姿勢を取った上、言う。

「亂臣や賊子はどの時代においても無くすこと叶いませぬ。とは申せど、よもや今の世におけるそれが、臣に近き者でありましたとは思いもよりませなんだ」

 この言葉を聞き、元帝はまともに履き物も履かないまま玉座より降り、王導の手を取った。そして言う。

「王導殿、ならばこの百里四方を平らげる大任、そなたに頼ろうぞ」

 こうして王導は前鋒ぜんぽう大都督だいととく、つまり王敦の矢面に立つ軍の総督とされた。


 とは言え間もなく刁協ちょうきょう劉隗りゅうかいらが敗走、元帝も王敦のもとに謝罪の使者を送る。こうして、ひとたびは王敦も矛を収めるのだった。ただしその代償として、周顗が殺された。


 王導は周顗の助命を申し出ることはなかったが、後日過去の事例を検討するため中書省ちゅうしょしょうの書類を整理するにあたり、周顗がものした王導赦免嘆願の上表を見つけ、涙した。


「わしが直接手を掛けたわけではない。しかし,わしが原因で彼は死んでしまったのだ。不見識がために、わしは良き友に背いてしまった!」

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