03-08-09 漢一 司馬懿 上

 のちにその孫がより禅譲を受けることになる、追尊に言うところのしん宣帝せんてい司馬懿しばい赤壁せきへき荊州けいしゅうで勢力を増す関羽かんうにうろたえる曹操そうそうに向け、呉に関羽を討伐させるよう助言。以後発言力を増していった。


 諸葛亮しょかつりょうが三回目の北伐をなし、祁山きざんを包囲する。曹叡そうえいは司馬懿を迎撃に向かわせた。とは言え司馬懿は直接兵を戦わせようとはせず、守りを固める。

 このふるまいに対し、「賈詡かく」らは言う。

「司馬懿様はしょくを虎のごとく恐れていらっしゃる。このままでは天下の笑いものとされますぞ」

 そこで司馬懿は張郃ちょうこうを蜀軍に向け発した。しかし諸葛亮の迎撃により魏軍は大敗。

 その後蜀軍は食料の窮乏により、撤退した。リベンジを目論む張郃は追撃をかける。しかし、途中に伏されていた弩兵により射殺された。


 その後諸葛亮は幾度となく司馬懿に決戦を挑もうとしたが、司馬懿は一切応じない。そこで諸葛亮は司馬懿に女向けの衣服を送り挑発。「女々しいやつにはこの服が似合いだ」というわけだ。しかし司馬懿は挑発に応じず、むしろ使者に諸葛亮の陣中での様子を問う。そしただし尋ねるのは寝食の様子ばかりであり、軍備に対してではなかった。このため使者もつい語ってしまう。


「諸葛亮様は早朝より深夜まで職務をこなされ、杖刑二十回以上相当の軍事裁判についてはご自身で裁定されます。そのお食事は極めて質素なもので、ます数杯分にも及びません」


 これを聞いた司馬懿は配下に言う。

「まともに食べぬまま忙しいとは、長く保つはずもあるまいな」


 その言葉通り、間もなく諸葛亮が死亡。撤退を開始する。多くの兵たちが蜀軍の異変を司馬懿に告げてきた。なので司馬懿は追撃の軍を発した。すると蜀軍はむしろ迎撃の体勢を取ろうとする。司馬懿は下手に接近できず、遂に見逃してしまった。


 この事件について、人々は「死せる諸葛、生ける仲達を走らす」と言い合った。それを聞くと司馬懿は笑う。


「生きる奴について検討はできようが、死んだやつについてなぞ検討はできまいよ」



蒙求もうぎゅう


晉宣狼顧せんせんろうこ 漢祖龍顏かんそりゅうがん

司馬懿(世説)&劉邦(漢書)

 晋の宣帝、つまり司馬懿しばい。狼顧の相自体は狼が後ろを振り返るように、首が真後ろにまで回るさまを言う。が、そこに晋書が「帝內忌而外寬,猜忌多權變。」と書いたため寛容に見せかけて猜疑心の強い人の代名詞と化した。

 対する劉邦は龍のごとき貴人の顔、とされる。なんというか劉邦ってクソ親父&クソ器デカ親父って感じで、どうにもこうにも規格外の存在過ぎるんですよねえ……。

 国を興したふたりの高祖の面相にまつわる話。


陸玩無人りくがんむじん 賈詡非次かくひじ

 東晋初期の宰相、陸玩。東晋を立ち上げた宰相たちが次々と死亡したため就任したのだが、「東晋に人がいなくなってしまったためわたしに役目が回ってきたのだ」と嘆息した。

 曹操そうそうに仕えた軍師、賈詡。抜群の知略をもって仕えた。最終的に太尉、すなわち人臣の極みたる三公にまで上りつめたのだが、お前の家格にふさわしい官位じゃねえだろ、とツッコミを入れられていた。

 官位にふさわしくないと言ったり、言われたり。


亮遺巾幗りょういきんかく 備失匕箸びしつひちょ

 三国蜀が魏の支配する長安ちょうあんを攻め立てるも、司令官の司馬懿しばいはぜんぜん迎撃に出てこようとしない。しびれを切らした諸葛亮しょかつりょうは司馬懿に女物の衣服を送りつけた。女々しい奴め、と言うことだ。なお司馬懿はそれでも出てこなかった。

 曹操そうそう暗殺に巻き込まれた劉備りゅうびは、あるときいきなり曹操に「この世の英傑と言えば君と予くらいしかおるまいな」と言われた。聞きようによっては牽制としか取れないこの言葉を前に劉備は匙や箸を取り落す。直後雷が轟いたので雷に驚くふりをして取り繕ったのだが。

 挑発する英雄、応じる英雄。

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