03-08-06 漢一 諸葛亮 3 出師

 諸葛亮しょかつりょうは諸軍を率い、を討つための行軍、いわゆる北伐を開始した。出発にあたり、劉禅りゅうぜんに上表して言う。


「今、天下は三つに分かれ、益州えきしゅうは疲弊しております。まさしく存亡の秋と申すべきでしょう。どうか陛下に於かれては広く聞く耳をお持ちになり、忠臣の諌言を無視なさることの無きようお願申し上げます。

 宮中や軍府が一体となり、信賞必罰を徹底され、仁義に違う行いを見過ごされず、もし犯罪が良民を襲うようであれば、有司に付し、その刑罰を明らかとなさいませ。さすれば、平等明察の統治が天下に知らしめられましょう。

 賢臣と親しみ、小人を遠ざける。これが先のかんが栄えた所以にございます。小人に親しみ賢臣を遠ざける。これが末期の漢が衰えた所以にございます。

 臣はもとは庶民に過ぎず、自ら南陽にて田畑を耕す身でございました。この乱世にて身命を全うすべく振る舞うつもりでのみあり、諸侯に取り立てられることを望んではございませんでした。なれど先帝、劉備りゅうび様が臣の卑しき田舎暮らしも苦になさらず、御自らわざわざボロ屋のもとに三度も足をお運びになり、天下のことを臣にお問い合わせになりました。臣は大いに胸打たれ、先帝のもとへと馳せ参じたのでございます。

 先帝は臣の出しゃばろうとせぬところをよくご存知でございました。崩ぜられるに当たり、臣に大事をお委ねになりました。命を承って以来、臣は日夜この大命を全うできず、先帝の明察を損ねてしまわぬかを恐れております。このため先の五月に南の瀘水ろすいを渡り、文化なき地へと踏み入りましてございます。

 いま、南方はすでに平定され、武器防具も揃っております。これにて三軍を率い、北の中原を平定し、漢室を復興、陛下を旧都に還御し、先帝より賜った大恩に報い、陛下の職分に対し忠心をあきらかにせん、と考えております」

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