03-07-09 漢十 劉備 1

 涿たく郡に住む劉備りゅうび、字は玄徳げんとく。景帝の息子、中山靖ちゅうざんせい劉勝りゅうしょうの子孫である。大志を抱くも寡黙な質であり、喜怒を顔に表さなかった。身長は 180cm 前後、手を垂らせば膝にまで届き、耳の大きさは振り返ればじかに見れるほどだった。「関羽かんう」や「張飛ちょうひ」と親交を交わしており、劉備が立つと、ふたりは劉備に従った。


 反董卓連合が解散となったころ、劉備は下邳かひにいた。そこに袁術えんじゅつ袁紹えんしょうから追い出されて逃げ延びてきた呂布りょふが現れ、劉備を襲撃、下邳を奪い取る。劉備は曹操そうそうのもとに逃げ込んだ。すぐさま曹操は劉備をはいに派遣した。

 呂布が再び劉備を攻撃。劉備も再び曹操のもとに逃げ込んだ。呂布が曹操にくびり殺されると、曹操とともにきょに移動した。


 その許では、董承とうしょうが密かに献帝けんていよりの命を受け、劉備に曹操暗殺を持ちかけてくる。曹操はそれを知ってか知らずか、ある日劉備に言う。

「いま天下の英雄は、そなたさまとこの曹操くらいのものであるな」

 折しも会食のさなかのことであった。劉備はつい箸とさじとを取り落としたが、そこに突如雷鳴が轟く。劉備はあわてて身をかがめて言う。

「聖人は申しておりましたな、迅雷や風の激しき折に、人は顔色を変えずにおれぬものだ、と。なるほど、合点がいき申した」

 その後劉備は袁術えんじゅつ迎撃の名目を得たため徐州じょしゅうに出、そこで曹操討伐を旗印にして決起する。曹操が討伐軍を繰り出すと、劉備はまず冀州きしゅうに逃れて兵を得、さらに汝南じょなんを経て南の荊州けいしゅうに逃れた。


 荊州に出た劉備は劉表りゅうひょうのもとに落ち着き、そこで何年かの平安の日々を送った。しかしある日トイレから戻ってくると、はらはらと涙を流している。一体何があったのかと劉表が問えば、答えて言う。

「わしは常に馬に乗りっぱなしで、内ももに肉がついたことなぞござらぬ。だのにここしばらく乗らぬ間に、すっかり肉がついてしまった。このまま月日が流れて老いゆき、まともに功績も立てられずにいるままなのかと思い、悲しくなったのです」



蒙求もうぎゅう

亮遺巾幗りょういきんかく 備失匕箸びしつひちょ

 三国蜀が魏の支配する長安ちょうあんを攻め立てるも、司令官の司馬懿しばいはぜんぜん迎撃に出てこようとしない。しびれを切らした諸葛亮しょかつりょうは司馬懿に女物の衣服を送りつけた。女々しい奴め、と言うことだ。なお司馬懿はそれでも出てこなかった。

 曹操そうそう暗殺に巻き込まれた劉備りゅうびは、あるときいきなり曹操に「この世の英傑と言えば君と予くらいしかおるまいな」と言われた。聞きようによっては牽制としか取れないこの言葉を前に劉備は匙や箸を取り落す。直後雷が轟いたので雷に驚くふりをして取り繕ったのだが。

 挑発する英雄、応じる英雄。

 

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