03巻B 三國志の時代(後漢末~蜀漢)

三國志 ことはじめ

 ここから、日本における三國志さんごくし受容の基礎形となっているであろう十八史略じゅうはっしりゃくの三國志パートに入っていきます。ここをきっちり読んでおきたかったっていうのは本作をやるモチベーションの大きな一つだったんですよね。と言うのも、正史と演義とその後の創作で、様々な三國志解釈って入り乱れてるじゃないですか。十八史略を見れば「演義直前」の三國志の姿を見ることができるんじゃないか、って期待してたんです。


 っが、ここに一点。ふざけんな案件が降りかかってきた。


 十八史略三國志パートにおいて、突然みん代の人「劉剡りゅうえん」さんが割り込んできて言葉を差し挟んでこられます。


そうちゃんは十八史略編纂にあたって言ってるんだ。天下が統一されていないときにはそれぞれの国で歴史を編むべき。しかしそれだと初学者が混乱してしまうかもしれない。時系列がよくわかんなくなっちゃうと思うので。そしたら仮にでも一つの国を柱として頭からラストまで追いかけて、ここに各国で起きたことを付言していくのがわかりやすいんじゃないか、って。

 その方針は悪くない。ただ曾ちゃん、ここで陳寿ちんじゅと同じ方針をとっちゃってるんだよね。つまりを帝と呼び、そこに「かん(=しょくのこと。劉備りゅうびが漢の滅亡を受けて自らを漢帝と称したところに起因する)」とを付記する、って形。このやり方って、朱子学しゅしがくで否定されてるじゃん? 朱子はあくまで正統が漢(つまり蜀)だ、って仰ってたよね。だから自分はここを修正しました。まーそうすると資治通鑑しじつがんの内容からも少々差異が出ちゃうんだけど、その辺もあわせてなおしたよ! これで正統が漢から晋に受け渡されるという、正しい歴史観に修正されました!」


 いや待って? ぼくここまで「曽先之そうせんしさんの歴史観が知りたくて十八史略を追ってきた」んだけど?


 こういう「あいつの歴史観が間違ってたから正してやったんです!」みたいにドヤ顔してくるようなやつ、他の所でも自分に都合が良くなるように手を加えるんじゃない? まぁ「敢えて書いている」以上、他の所は「最大限」曽先之史観を継承はしてるんでしょうけど。あー、けどこの辺曽先之本と対照させないと確定のしようがないよな……はいやめやめ。


 まー何せ十八史略、緒言で「クソ」とは書きましたが、それはあくまで「歴史研究者が当たる本として」の評価。地元中国でも、初学者や少年少女が学ぶとっかかりを得る本としては、後世でも確かな地歩を確保していたようなのです(だからこそ注がついたり後世で改定されたりするわけですね)。なら「当時の歴史観をわかりやすく伝える書」としての改定はなされねばならんわけで。ともなれば、劉剡の改定についても「南宋なんそうから明に至る段階で正統観が切り替わった」ことに意義を見出すべきなのかもしれません。三国志演義のブレイクが理由なのかしらね。


 と言うわけで三国時代については曽先之先生の歴史観を見出すことを諦め、大人しく劉剡さんの歴史観に添えるよう努めます。なので順番としては霊帝れいてい献帝けんてい昭烈帝しょうれつてい(劉備)→後帝こうてい劉禅りゅうぜん)を時代の軸として、そこに各年代で活躍した人物の伝記を加えていく形とします。「日本における中国史受容」の祖型が劉剡改定本だとしたら、敢えて曽先之にまできっちり遡る意味もないでしょうしね。


 正史準拠でお話をしたいのに蜀正統史観に付き合わなきゃいけなくなったことにやや混乱していますが、東晋とうしん習鑿歯しゅうさくし先生(※後世の蜀正統史観の原型を打ち立てた人物)の笑顔が見られて良かった、と思い込むことで心を落ち着けようと思います。



 なお三國志の時代は、「春秋戦国 ことはじめ」に示した時代区分で言えば秦漢しんかん第十世代、魏晋ぎしん南北朝なんぼくちょう第一第二世代にあたります。この区分はまさか蜀正統史観に付き合うことになるとは思いもよらなかったアレですので、その辺の混乱を敢えて残すよう、後漢滅亡までを漢十、蜀漢建立以降を漢一漢二として書きます。皆さんも混乱してください。

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