03-03-07 漢八 虞詡 下

 西方調略に臨む虞詡ぐくの行く手を、きょう族数千が遮る。虞詡はいちど軍を止めると、兵らに向けて宣言する。

「現在都に増援を依頼している、ここで増援の到着を待つ」

 羌人たちはその話を聞き、安心して各地の略奪にいそしんだ。一方の虞詡は羌人が分散したことを聞くと、日夜をおして西方に進軍。その途中で野営をする際、はじめは二つ、次は四つ、次は八つと、徐々にかまどの数を増やさせた。


 ある者が問う。

孫臏そんぴんは竈を減らしましたが、将軍は増やしておられる。これはいかなるゆえにございますか? また兵法には一日に三十里以上進むべからずとありますが、いまの行軍は一日二百里を越えております。これはいかなるゆえにございますか?」


 虞詡は答える。

「羌族は多く、我らは少ない。いま徐行すればたちまち追いつかれよう。早くに進めば敵は我らの動きを測りきれるまい。しかも竈が増えているのを見れば、既に増援が到着したものと勘違いしよう。敵が日に日に増えながら、しかも数を増やすのだ。我らに追いつきたくはなくなろうさ。孫臏が弱さで欺くのならば、わしは強さを欺くのだ。やり口が違うのは、情勢が違うからよ」


 虞詡軍が赤亭せきていに到着したところで、羌に追いつかれ、包囲を受ける。虞詡の兵は三千、敵は一万余。赤亭にて籠城すること数十日、ここで虞詡は反撃にあたり強弩を隠しておき、敢えて弱い弩にて攻撃をさせた。やがて羌が虞詡軍の弩の威力を見くびって城門に一気に攻めかかろうとする。そこで虞詡はようやく強弩二十門を引っ張り出し、集中攻撃を仕掛ける。すべての矢が羌の先鋒にあたると、羌軍は大いに驚き、勢いを失った。それを見て虞詡は城門から兵を繰り出し、羌軍を打ち破った。


 翌日、虞詡は城の前に兵を整列させた。東郭門から出て、北郭門に入らせる。城内に入った兵には服を着替えさせ、ぐるぐると周回させる。遠方から見る羌からすると兵の数がいつまでも尽きないように見え、ついには怖じ気づき、撤収を開始する。羌軍の撤収を読んでいた虞詡は撤退経路に伏兵を置き、大慌てで引き返そうとする羌軍にさらなる追撃を加えた。こうして羌軍は敗北した。

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