03-01-11 漢六 隗囂 1

 隗囂かいごう公孫述こうそんじゅつと結ぼうかと考え、「馬援ばえん」に成都せいとに赴かせ、公孫述のなりを観察させた。馬援は公孫述と旧交があったため歓迎されるものと思っていたが、このとき既に皇位僭称して四年にもなっている公孫述は玉座のまわりを物々しく護衛で固めていた。思わぬ謁見という形になった馬援は自らの部下に言う。

「天下の雌雄がいまだ定まっておらぬのに、公孫述殿には国士を歓迎しようという気もないようだ。あのように無駄にゴテゴテと飾り立て、まるで木偶人形のようではないか。あのような者のもとにどうして天下の士が久しく留まろうかよ」

 そうして謁見を辞退して帰還。隗囂に言う。

「公孫述くんは井の中の蛙でありながら、みだりに驕り高ぶっております。あれをどうこうしようと思うのなら東方、劉秀りゅうしゅう殿のほうにもっと注意を割くべきでありましょうな」


 そこで隗囂は馬援に書を持たせて洛陽らくように向かわせた。

 しばらく待たされたのちに城内に招き入れられると、光武帝こうぶていが自ら廊下に出てき、冠も被らずに頭巾を被る程度の簡素ないでたちで馬瑗を出迎え、笑顔で言う。

「きみは二帝の間を遊説して回られたと聞く。ならばどの程度の人物かと疑問に思っていたのだが、今きみにこうして見え、むしろそのように疑ってしまったぼくのことを恥ずかしく思うのだ」

 馬援は深々と頭を垂れて言う。

「このご時世、主だけでなく、臣下もまた人を選ぼうと考えるものです。臣は公孫述と故郷が同じで、若き頃には交流を重ねてまいりました。しかるに先ごろしょくに赴いてみれば、奴めは物々しい警備のもとで臣と面会しようと致しました。いま臣が遠きより赴くに、どのような刺客や姦人であるかもわからぬのに、陛下は何とも気軽に臣にお会いになろうと思われましたな」

 光武帝は笑う。

「きみは刺客ではなく、説客ではないか」

 馬瑗は答える。

「いま天下では気軽に皇帝を名乗る者がひしめきあっておるものですが、こうして陛下に見え、その実に太っ腹でいらっしゃること、まさしく劉邦りゅうほう様がごときであるよう感ぜられました。なるほど、真に帝王となるお方には、生まれつき備わっている真の徳というものがあるのでございますな」

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