03-01-05 漢六 光武帝劉秀 5

 劉秀りゅうしゅうは地図を開き、鄧禹とううに言う。

「天下にはこれだけの郡県があるのに、いまようやく一つが手に入ったに過ぎない。さて、あなたは以前ぼくに、ぼくならば天下を定められる、と言ったね?」

 鄧禹は答える。

「天下はいま乱れており、人々は赤子が母を求めるがごとく明君を求めています。古の人君が立ったのはその徳の多寡にあり、領土の大小ではありません」

 

 耿弇こうえん上谷じょうこく漁陽ぎょようの兵を糾合、向かう途中の郡県を平定しつつ、広阿こうあの劉秀と合流した。劉秀軍は邯鄲かんたんに進撃、王郞おうろうを斬り、各郡県の民が王朗のもとにつくと明言していた数千にも及ぶ書面をすべて焼き払った。そして言う。「これで不安を抱いていたものたちも安心するだろう」


 劉秀が改めて人材配置を行おうとしたとき、みなはこぞって「大樹将軍の下で働きたいです」と言い出した。馮異ふういのことである。

 馮異は謙譲の精神に満ち、決して功を誇らず、諸将が自らの論功について語っているとき、ひとり大樹の下でくつろいでいたため、この号で呼ばれていた。


 更始帝こうしていは使者に劉秀の功績をたたえさせ、しょう王に封じ、更には兵権を没収しようとした。この事態を受け、耿弇は劉秀に、河北かほくがいまだ平定されていないことを理由に命令を拒絶するべく説いた。


 劉秀は銅馬をはじめとした地域の群盗を平定、配下に組み込んだ。しかし劉秀配下達ともと群盗らはお互いに疑い、警戒し合っていた。そこで劉秀は一旦もと群盗たちをもとの根拠地に帰し、その上で自らが軽装にて訪問。各勢力の長と懇談した。この対応をみて、人々は言う。

「劉秀様は腹蔵なく我らと接し、その身中にお導きくださったのだ。どうしてこのお方のために命を張らずにおれよう」

 こうして各降将が改めて劉秀軍に組み込まれるのだった。その後劉秀軍は南下、河內までを制圧した。



蒙求もうぎゅう

馮異大樹ふういだいじゅ 千秋小車せんしゅうしょうしゃ

 馮異は光武帝に仕えた雲台二十八将の第七席、つまりトップ名将の一人。にもかかわらず謙譲を旨とし、皆が論功行賞について語っているところ、一人木の下でたたずんでいた。配下の兵たちはみな馮異の下でこそ働きたいと願い出たという。

 田千秋でんせんしゅうは特に取り柄があるわけでもなかったが、前漢武帝ぶていが讒言によって皇太子を殺してしまったことの非をただ一人武帝に指摘した。これによって武帝ははっとなり、田千秋に感謝の意を示した。また田千秋を宰相に取り立て、足腰が弱っていることを理由に車椅子に乗っての参内が許された。

 え、どういう二人……? あえて言えば慎ましさがすごく、皇帝に寵愛された、とかそんな感じ?

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