02-05-07 漢三 武帝劉徹 終

 武帝は天下の知者を多く宮中に抱えた。荘助そうじょ朱買臣しゅばいしん吾丘寿王ごきゅうじゅおう司馬相如しばしょうじょ東方朔とうほうさく枚皐ばいこう終軍しゅうぐんといったものである。中でも司馬相如は詞賦の腕前で、東方朔と枚皐は俳優・道化者的存在として寵愛された。とは言え東方朔はしばしば武帝を諫める役回りも請け負ったのだが。

 武帝はまた方士の李少君りしょうくんをはじめとした者たちの言葉を信じて神仙、不老不死を求めた。しかし李少君を殺し、五利ごりを殺し、公孫卿こうそんけいらを重んじるようになったころ、ようやく迷妄から覚めた。


 武帝のころに董仲舒とうちゅうじょ公孫弘こうそんこう児寬げいかん孔安国こうあんこくらの出現により儒学が整備された。またこの頃には多くの瑞祥が報告され、それらを祝うための詩が作られ、音楽が作られた。文学もまた盛んとなり、夏殷周の時代の繁栄が復活した、とされた。


 武帝は七十歳で死んだ。昭帝が立った。



蒙求もうぎゅう

買妻恥醮ばいさいちしょう 澤室犯齋たくしつはんさい

 朱買臣は五十をちょっと過ぎたあたりで初めて漢の武帝に取り立てられ栄進したのだが、それまでは本を読んで芝刈りをしてばかりであったという。栄達の直前、妻はそんな朱買臣に失望して離婚。そして朱買臣は栄達後故郷に戻り、元妻と、元妻が新たに選んだ夫を食事に招待。元妻は恥ずかしさのあまり自殺した。いや朱買臣さんあんたもなかなかえげつねーことなさる。

 後漢の明帝の時代に宰相となった周沢はとにかく物忌みが大好き。一年365日のうち359日は斎戒しないと気がすまない口であったという。ところで斎戒の場である宗廟は女人禁制。だと言うのに周沢さんが宗廟内で倒れる。禁を破って夫を助けようとした奥さんに、周沢さんむしろ激怒、逮捕までさせた。世の人は奥さんにそれはもう同情したそうである。

 とことん報われない奥さんふたり。

 

壽王議鼎じゅおうぎてい 杜林駮堯とりんはくぎょう

 前漢武帝の時代、汾水ふんすいの南で美しき鼎が発掘された! 宮中の皆は「素晴らしき周の宝が発見された!」と大喜びしたが、吾丘寿王ごきゅうじゅおうは「だまらっしゃい! この鼎が出現したのは漢の徳が極限に至ったことを天が嘉したもの、つまり周の宝じゃなくて漢の宝じゃ!」と言ったのだとか。ブテーヘーカはその発言を讃えたという。

 後漢が立ち上がったころ、偉大なる先祖を祀ることについて議論があった。周の系譜は后稷こうしょくに始まる、ならば漢帝はぎょうの子孫なので堯を祀るべきでは? と言うものだ。そこに進み出る杜林さんは言う。いや別に堯って漢の立ち上げに絡んでないっしょ? と。それを聞いて、みんな「それもそうだ……」と思い直したのだとか。

 周周うるせー、漢を讃えろ漢をと周囲を喝破したふたり。


曼倩三冬まんせいさんとう 陳思七步ちんししちふ

 前漢武帝は文士たちを集め、席次によらず、その才によって側近に取り立てると宣言した。だいたいの人間はものごとの利害であるとか、ヤヤコシイ言葉などで自らを飾り立てては武帝に退けられていたが、東方朔とうほうさくは「ひとたび文章を読み始めれば三年でマスターしましたよね」と言った内容をはじめとした傲然と自らを讃える文章を提示。こいつは変人だと武帝に召し抱えられた。

 陳思王ちんしおう。すなわち曹丕そうひの弟、曹植そうしょくの諡だ。世説新語には曹丕が七歩歩く間に詩をあまねば処刑などとムチャブリされたところ「兄ちゃん同じオヤジから生まれた兄弟じゃんかよう、なんでそんないじめるんだよう」という内容の詩を書いて曹丕を凹ませた、と載る。これは説話だが正史に載る曹植から曹丕にあてたお手紙はわりと「お兄ちゃん大好きだよう逆らう気なんてないよういぢめないでくれよう」的な意味をその文章力に載せて殴りつけてきており、曹植お前さあ……と思わないでもない。

 トンデモネー文辞の才覚を示すふたりを、数字に絡めて。


枚臯詣闕ばいこうけいけつ 充國自贊じゅうこくじさん

 枚臯ばいこうの父、枚乗ばいじょう前漢ぜんかん景帝けいてい期に活躍した文人だったが、公的な記録にはその息子で文才に長けている者がいなかった。しかしあるとき長安城ちょうあんじょう城門にひょっこりと現れた枚臯が「ワイ枚乗の息子やで!」と言い出す。枚乗が旅行先でこさえた子だというのだ。実際枚乗にもひけを取らないレベルの文人だったので武帝ぶていは彼を側近に採用した。

 趙充国ちょうじゅうこくは前漢宣帝せんていの時代に活躍した老将。西方をきょう族が侵してきたとき、誰が適任かと問われたときに「まぁ、わし以上にやれるものなどおりますまいな」と豪語、本当に大勝して帰ってきた。

 自らの才覚への自負、それを言い切る度胸、そして自負通りの実力を示したふたり。

  

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