02-04-04 漢二 景帝劉啓

 景帝けいてい劉啓りゅうけい。即位した年、丞相の「申屠嘉しんとか」が言う。

高帝こうていほど功績の偉大な方はおりません、太祖たいその廟といたしましょう。文帝ぶんていほど徳高きお方はおりません、太宗たいそうの廟と呼びましょう」

 景帝もこれを許可した。


 景帝が太子の時、寵愛されていた人物に「鼂錯ちょうそ」がいた。景帝が即位してからも引き続き寵愛され、九卿の中でも最も重く扱われ、鼂錯によって定められ、改定された法も多くにのぼった。


 文帝の時代、劉濞りゅうびの嫡男が文帝に謁見した。ここで当時の皇太子、すなわち後の景帝も交えての酒宴となり、囲碁を打った。そこで不敬があったため、景帝は碁盤を彼に投げつけ、殺してしまった。それ以降劉濞は仮病を使って参内しなくなった。

 それを鼂錯が「罰として風土を削るべきです」と言っていた。結局文帝はそれを実現しなかったわけだが、景帝が即位するにあたり、改めて鼂錯が言う。

「劉濞殿は天下のあぶれものを集めて謀反を画策しております。封地を削ろうが削るまいが結局は反乱しましょうが、削ってしまえば準備の整わぬうちに決起をさせることができます。決起が遅れれば、その分被害は増しましょう」

 そこで景帝は意見を高官らにも求めたが、これに口出しをできる者は誰もいなかった。

 さらに鼂錯は言う。

王もちょう王も罪があります」

 そこでそれぞれ一郡を削られた。

膠西びゅうせい王も良からぬことを考えています」

 そこで六郡が削られた。

 さらに劉濞の元に會稽かいけい豫章よしょうとを削減する旨を伝える使者が到着。ここに至り、ついに劉濞は乱を起こした。膠西・膠東びゅうとう菑川しせん済南さいなん・楚・趙の六国は既に劉濞と密約を交わしていたため決起した。けっきもまた密約を交わしていたのだが、決起にいたって後悔した。

 鼂錯と不和であった袁盎えんおうが景帝に讒言する。

「鼂錯を斬り、諸侯のもと持っていた封地を復帰させれば、兵が刃を血に濡らすことなく乱は収束いたしましょう」

 そこで鼂錯は族滅を受けた。ただ乱は収まらなかったため、周亜夫しゅうあふが吳楚の軍を大破し、乱を収束させた。


 景帝は在位十七年で死亡した。太子の劉徹りゅうてつが皇帝として立った。のちの「武帝」である。



蒙求もうぎゅう


孔翊絕書こうよくぜつしょ 申嘉私謁しんかしえつ

 孔翊こうよく洛陽らくようの長官として勤務したとき、庭に池をしつらえた。孔翊の元に自己アピールであるとか推薦文が届いたとき、すべて内容を見ずに池に投げ捨てたという。

 申屠嘉は劉邦に仕えた武人で、文帝の時に丞相にまで至った。しかし私的な訪問は一切受けなかったという。

 公正な人事を図るために徹底した態度を取るふたり。


鼂錯峭直ちょうさくしょうちょく 趙禹廉倨ちょううれんきょ

 漢の景帝けいていに仕える鼂錯は実直有能であったが、融通が利かず、また酷薄な判断をしばしば下した。この性分が景帝の時代の宗族反乱・呉楚ごそ七国の乱を招いたとされ、腰斬された。

 趙禹は漢の武帝ぶていに仕え、官吏どうしの相互監視体制を確立させた。清廉潔白な仕事ぶりではあったが傲慢な人となりであり、親しい者はほぼおらず、ただ己の職務を全うし、死んだ。

 人当たりのヤバい二人の明暗。


袁盎却座えんおうきゃくざ 衛瓘撫牀えいかんぶしょう

 かん文帝ぶんていに仕えた袁盎えんおうは、文帝が側妾のしん夫人と同じ位置の席について宴に興じているのを見て、慎夫人の席を一段低いところに引き下ろす。文帝と夫人が怒ると、「皇后陛下であればともかく、慎氏は側妾のお一人でございます。その線引きはしっかりとなさいませ」と諫めた。ちなみに諫めすぎて煙たがられた。

 西晋せいしん武帝ぶていに仕えた衛瓘は、後継者の司馬衷しばちゅう(のちの恵帝けいてい)が暗愚であることを憂慮していた。そこで皇帝しか座れない席にすがりつき、「ああ、この座が惜しゅうございます」と口にした。なお衛瓘は武帝の時代には咎められなかったが、恵帝の時代、皇后賈南風かなんふうの策略により殺されている。

 皇帝のために設けられる席にまつわる諫言を為した二人。





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