02-03-13 漢一 韓信 2

 漢中かんちゅう王に任じられた劉邦りゅうほう、漢中に向かう。配下らはみな故郷に帰りたいと嘆き、故郷の歌を歌い、そして逃亡した。その中には韓信かんしんもいた。これまで蕭何しょうかが何度も自分を推挙したはずなのに受け入れられていないのは、劉邦に自分を拾い上げる気が無いからだ、と。

 それを聞き、蕭何は韓信を追う。これが劉邦にとっては蕭何の逃亡に映った。やがて蕭何が帰ってくると、劉邦、蕭何に面罵する。


「何故逃げ出したのだ!」

「逃げたのでございません。韓信を追ったのです」

「これまで将軍なぞ何十人と逃げ出したのに、お前は追わんかったではないか! 韓信を追ったというのも、おおかた偽りだろう!」

「諸将なぞいくらでも替えが利きます。しかし韓信は国士無双。劉邦様が漢中王のままで良いと仰るのであれば韓信は必要ございますまい、しかし天下を目指されるのであれば、ともに計を謀りうる者は韓信を置いてございませぬ」

「そりゃ東には出たい、こんなところで鬱々となぞしておれん」

「ならば韓信を重く用いられませ。未だ韓信はこの地に留まってはおります、しかし劉邦様が用いられないのであれば亡命致しましょう」

「ならば、そなたのためにも用いようか」

「それでは留まりますまいな」

「ならば大将ではどうだ」

「よろしゅうございます。だいたい劉邦様は普段から傲慢に過ぎられます。それでいて子どもを呼び出すかのように安直に大将をお決めになる。そういうところが韓信に逃げられる所以なのです」


 そこで大将就任のセレモニーのための祭壇を設けることにした。諸将の誰もが「俺が大将に就任か?」と期待したのだが、しかし就任したのは、韓信。誰もが驚いた。


 韓信の命によって諸将が配置され、また蕭何には漢中にて巴蜀はしょくの糧秣を集積、軍資として配備させる任務が与えられた。韓信自身は兵を引き連れて漢中より北上、秦嶺しんれい山脈を越え、章邯しょうかんを急襲。敗死させた。司馬欣しばきん董翳とうえいは降参した。



蒙求もうぎゅう

葛亮顧廬かつりょうころ 韓信升壇かんしんしょうだん

 劉備りゅうびは庵を結び半ば隠遁していた諸葛亮しょかつりょうのもとに何度も足を運び、ついに臣下に迎えた。

 劉邦りゅうほうはそれまで無名であった韓信を大将軍に抜擢した。

 開国の英雄を助けた名臣の大抜擢。

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