02-03-12 漢一 韓信 1

 ここからは天下無双、韓信かんしんについてだ。


 韓信は淮陰わいいんの生まれ。その家は貧しく、なんとか食べるものを得たいと思って城下で釣りをしていた。するとひとりのわた洗いの女がその姿を見て飯を与える。韓信は感謝し、「きっとあなたに厚くお礼をする」という。すると彼女は怒る。

「いい若いもんがまともに飯も食えないようで何を言っとんのだね! あたしゃあんたをかわいそうと思っただけだ、礼がどうこうなんて考えるんじゃないよ!」


 淮陰の屠殺業を営んでいた若者たちが韓信を馬鹿にする。あるとき彼らは徒党を組んで韓信に言う。

「デカい図体して剣なぞぶら下げてるが、どうせ内心ではビクビクしてるんだろう。もし殺せるってんならその剣でおれを刺してみな、それがいやなら俺のまたの下をくぐれ」

 韓信はしばらく相手を見たあと、やがて這いつくばり、またの下をくぐった。それを見た人々は韓信を笑いものにした。


 項梁こうりょうが淮水を北に渡ろうかと言うとき、韓信はそこに従軍する。しばしば項羽こううに献策したが用いられず、そのため亡命しきじゅんに帰順した。はじめ治粟都尉ちりつとい、つまり兵糧管理の役職につけられ、そこで蕭何しょうかとしばしば言葉を交わした。やがて蕭何も韓信をただ者でないと認識した。



蒙求もうぎゅう

漂母進食ひょうぼしんしょく 孫鍾設瓜そんしょうせっか

 韓信は貧乏もので、日々の食事もろくに取れないありさまだった。それを憐れんだわた洗いの婦人に食事を恵んでもらった。そして漢の誇る大将軍として立身した韓信、彼女に厚く酬いたという。

 孫鐘そんしょうは呉の孫堅そんけんの父である。貧乏暮らしをしていた中で瓜を何とか収穫できたのだが、折悪しく、そこに三人の客。しかも瓜が食べたい、と言う。孫鐘、自らの思いは殺し、彼らに食事、そして瓜を与えた。そうしたら、その三人は実は運命を司る神であった! 後日の息子以下については、あえて語るまでもないだろう。

 食に酬いる人たちの話。

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